ある日、取引先との打ち合わせでこんな話が出た。「うちのシステム会社、最近ちょっと元気がないんだよね。もし潰れたらどうしようって、正直思ってる」。

笑い話のように話していたが、その目は笑っていなかった。

中小企業の経営者と話していると、この種の不安をよく耳にする。ひとつのシステム会社に業務を握られている感覚。何かあったときに、自分たちだけではどうにもならないという感覚。それは決して気のせいではない。構造的な問題がある。

「このシステムしかわからない」という状態がどう生まれるか

システム開発の世界には、ベンダーロックインと呼ばれる現象がある。特定のシステム会社や技術にどっぷり依存してしまい、そこから抜け出せなくなる状態のことだ。

これが起きる理由のひとつは、独自フレームワークや独自言語の使用にある。一部のシステム会社は、自社独自の開発基盤や環境を使ってシステムを作る。その技術を知っているのは、基本的にその会社の人間だけだ。

これは悪意があってやっていることではない場合も多い。自社の効率を上げるために独自ツールを作った結果、気づいたらそれを使い続けるしかない状況になっていた、というケースも少なくない。ただ、依頼した側にとっては、知らないうちに「この会社がいなくなったら詰む」という関係に入っていたことになる。

もうひとつの理由は、ドキュメントの貧しさだ。何がどこにあって、どういう仕組みで動いているかが、体系的に残されていないシステムは多い。そういう場合、そのシステムを触れる人間は、作った会社のエンジニアしかいない。担当者が転職しても、会社が廃業しても、文書がなければ何もわからない。

不安の正体は「見えない依存」

このビジネスを長年やってきた経営者たちが感じているのは、なんとなくの不安だ。「うちのシステム、自分でいじれないし、中身もわからない」「何かあったときに、あの会社に頼むしかない」という感覚。

その不安の正体は、依存関係の不透明さだ。依存していること自体は問題ではない。システムを外部に任せること自体は合理的な判断だ。問題は、その依存関係がどういう性質のものかが見えていないことだ。

「今の会社に頼み続けることにメリットがあるから続けている」のか、「他に選択肢がないから続けているしかない」のか。この二つは全く違う。前者は健全な関係で、後者はリスクだ。

自社のシステムが「汎用的な技術で作られているかどうか」を確認したことがあるだろうか。JavaScriptやPython、PostgreSQLといった世界中で使われている技術で作られていれば、それを扱えるエンジニアは世の中にたくさんいる。どこかの会社に何かあっても、別の会社が引き継げる。

一方、聞いたこともない独自フレームワークで作られたシステムは、作った会社しかわからない。これが「見えない依存」の核心だ。

「引き継げる」システムと「引き継げない」システムの差

実際に発注する立場から見ると、この違いをどうやって見分ければいいか。

ひとつのシンプルな問いかけがある。「このシステム、うちが別の会社に引き継ぎたいと言ったら、できますか?」。この質問をしたときの反応が、多くを教えてくれる。

汎用技術で作っている会社であれば、「はい、コードとドキュメントをお渡しすれば、別の会社でも対応できます」と答えられる。そうでない会社は、言葉を濁すか、「弊社独自の仕様があるので…」という答えが返ってくる。

もちろん、依頼先を変える予定がなくても、「変えられる状態」にあることは大切だ。選択肢があるということは、交渉力があるということでもある。「他に選択肢がない」状態は、じわじわとコストや関係性に影響してくる。

長く付き合えるシステムを選ぶための視点

最初にシステムを作るとき、多くの経営者が気にするのは「費用がいくらか」と「いつできるか」だ。それは当然の関心だ。でも、もう少し先を見ると、「このシステムは5年後も使えるか」「自分たちでもある程度管理できるか」「担当会社に何かあっても大丈夫か」という問いも同じくらい重要だ。

技術の話は難しく聞こえるかもしれない。でも、「汎用的な技術を使っているか」「ドキュメントを渡してもらえるか」「別の会社に引き継ぎ可能か」という三点を確認するだけでも、依存リスクはずいぶん違ってくる。

システムを選ぶのは、10年付き合う車を選ぶようなものだ。見た目や値段だけでなく、部品が入るかどうか、修理できる店があるかどうかを気にするのと同じ視点が、システムにも必要だ。

自分たちのビジネスを、特定の誰かに「握られた」状態に置くのではなく、自分たちが主体的に管理できる状態を作ること。その観点から、次にシステムを作る機会があれば、ぜひ発注先に「引き継ぎは可能ですか」と聞いてみてほしい。

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