新規事業の担当者が最初につまずく場所のひとつが、社内の意思決定者を動かすことだ。アイデアはある、やる気もある、でも上が首を縦に振らない。そういう状態で止まっているプロジェクトを、いくつも見てきた。
「説得できなかった」と担当者は言うが、そもそも「説得」という構造が問題だった、というケースが多い。
「説得する」と考えている限り、うまくいかない
説得とは、結論を持った側が相手を動かそうとする行為だ。プレゼンを磨いて、資料を整えて、質疑に備える。その構造では、意思決定者は「判定する側」に固定される。判定する側に置かれた人間は、リスクを探す。反対意見を出しやすい立場になる。
これを「巻き込む」構造に変えると、動き方がまるで違ってくる。意思決定者が早い段階から関わっていれば、それは「自分ごと」になる。自分が関与したプロジェクトを否定するのは、人として難しい。
巻き込みの最初のステップ:仮説への意見をもらう
「承認してほしい」ではなく、「意見を聞かせてほしい」から始める。これが最初の一手だ。
たとえば、「この市場に対してこういう仮説を持っているのですが、抜けているところはないでしょうか」という問いかけなら、相手は検討者になれる。自分の知見を活かせる問いかけに、人は乗りやすい。
このとき重要なのは、仮説の精度が低くてもいいということだ。むしろ粗い段階で持っていくほうが、相手が意見を出しやすい。完成度の高い資料を持っていくと「もう決まっている話に乗せられる」という感覚を与えてしまう。
意思決定者の「関心の型」を先に把握する
ステークホルダーへの話し方を考える前に、その人が何を気にしているかを把握しておく必要がある。関心の型は大きく3つに分かれることが多い。
リスク重視型は「うまくいかなかったときに会社がどうなるか」を最初に考える。この人に「うまくいく理由」を並べても刺さらない。先に「最悪のケースとその撤退ライン」を示すほうが信頼を得やすい。
数字重視型は「投資対効果が見えるか」を優先する。仮説の段階であっても、ラフな試算を用意しておくことが大切だ。「わかりません」という答えは、準備不足の印象を与える。
ビジョン重視型は「これは会社の方向性と合っているか」を問う。市場規模より「なぜ自社がやるべきか」の文脈が響く。
3つのどれかに当てはまることが多いが、複合型もいる。直近の経営課題や本人が抱えているプレッシャーによって、同じ人でも変わることがある。一対一での雑談や、過去の意思決定のパターンから読むのが一番早い。
「小さな合意」を積み上げる
大きな承認を一度に取りに行かない。小さな合意を積み上げることで、気づけば「否定できない状態」になっていく。
たとえば、「まずユーザーに話を聞いていいですか」という許可は取りやすい。次に「5人に話を聞いた結果、こういう反応がありました。次のステップとして簡単なプロトタイプを作りたいのですが」と続ける。プロトタイプの承認が出れば、「試してみた結果、受注見込みが2件入りました」という報告ができる。
それぞれのステップで相手を動かすのは、一度の大きなプレゼンより難しくない。積み上がったプロセスが、最終判断への根拠になる。
反対意見が出たときの対処
反対意見は否定ではなく、相手が関与し始めたサインだと捉えると対処しやすくなる。全く興味のない話には、人は反対意見さえ出さない。
反対意見が出たとき、その場で即座に反論するのは避けたほうがいい。「確かにそのリスクはあります。どういう条件が揃えばそのリスクを下げられると思いますか」と問い返すと、相手は解決策を考える側に移行する。
相手が解決策を出してくれた場合、それは「このプロジェクトを前に進めるための知恵を出した」ということになる。そうなれば、もはや反対者ではない。
最終承認の場を設計する
承認を取る場を「報告会」ではなく「確認会」として設計する。報告会は担当者が話し続ける場だが、確認会は「ここまで一緒に議論してきた内容を確認しましょう」という場だ。
確認会の場では、プロセス全体のサマリーと、これまでの小さな合意の積み上げを簡潔に振り返る。新しい情報を大量に出す必要はない。「すでに合意していた内容を、改めて確認する」という流れにする。
承認が出ない場合、たいていの原因はこのプロセスのどこかが抜けている。意思決定者の関心の型を読み違えていたか、小さな合意を積まずに一気に持ち込んだか、反対意見を封じようとしてしまったか。
新規事業の推進は、アイデアの良さだけで決まらない。組織の中でどう動くかが、同じくらい重要だ。その動き方は、学べる。
よくある質問
ステークホルダーが複数いる場合、誰から動かすべきですか?
最終決裁者に近い人から始めるより、その人が信頼を置いているキーパーソンを先に動かすほうが効くケースが多い。最終決裁者は周囲の反応を見て判断することが多いため、味方を作っておくことが先決になる。
上司が新規事業に対して根本的に否定的な場合はどうすればいいですか?
否定的な理由を分解することが先決だ。「リスクへの懸念」なのか「優先度の問題」なのか「過去の失敗体験からくる感情」なのかによって、対処がまったく異なる。否定の言葉を額面通りに受け取らず、背景にある関心を聞き出すことから始める。
承認を取ったのに、後から覆されることがあります。なぜですか?
その承認が「その場の空気に流された合意」だった可能性が高い。本人が自分の意志で関与して出した合意でなければ、状況が変わったときに撤回されやすい。承認の場より前の関与が薄かったことが原因のことが多い。
RELATED ARTICLES
NEW BUSINESS DEVELOPMENT
社内の壁を越えて、新規事業を動かす。
オルアナは新規事業の担当者と並走しながら、社内調整も含めて動きます。アイデアを形にする手前の「通し方」から一緒に考えます。
オルアナの新規事業開発について聞く →読んで気になることがあれば、まず話だけでも。
まず、業務を聞かせてください →