社内プレゼンで「いいね、面白いね」と言われた。手応えを感じて次の会議を待った。だが、アジェンダにその話は出てこなかった。誰かが「あの件、どうなったの」と聞いてくれることもなく、あの日の提案はなかったことになっていた。

新規事業の提案経験がある人なら、一度はこの感覚を知っているはずだ。「良いアイデア」と「承認を取れるプレゼン」は、まったく別物だということを。

プレゼンの中身が悪かったわけではない。熱量が足りなかったわけでもない。ただ、経営者が「やろう」と判断するために必要な情報が、そこには揃っていなかっただけだ。

この記事では、新規事業の社内プレゼンを通すために必要なストーリー設計の考え方を整理する。

なぜ新規事業の提案は通らないのか

多くの提案が「いいね」で終わる理由は、プレゼンが「アイデアの説明」になっているからだ。話し手は事業の面白さを伝えようとしている。だが経営者が聞きたいのは「面白いか」ではない。「やるべき理由」と「やれる根拠」だ。

経営者の頭の中には常にトレードオフがある。この事業に人とお金を使うなら、他の何かを後回しにする必要がある。その判断をするために必要な情報が揃っていなければ、どんなに面白い提案でも「検討しておく」という言葉で棚上げされる。

通らないプレゼンに共通するパターンは3つある。

一つ目は、市場・顧客・収益の話が薄いことだ。「こんなサービスができます」という説明に終始して、誰がいくらで買うのか、どのくらいの規模感なのかが見えない。経営者は事業を承認するのであって、アイデアを評価しているわけではない。

二つ目は、競合や先行事例との比較がないことだ。なぜ今それが事業機会になるのか、なぜ他社ではなく自社がやるべきなのかが語られないと、「外でやれば良いんじゃないか」という結論になりやすい。

三つ目は、リスクを隠していることだ。提案者はリスクを書くと否決されると思いがちだが、逆だ。経営者は必ずリスクを見ている。リスクが書かれていないプレゼンは「リスクを考えていない」と読まれる。失敗したときの撤退ラインが明示されていると、むしろ信頼される。

経営者が「やろう」と判断するために必要な3つの情報

①「なぜ今か」(市場・タイミングの説明)

新規事業の提案で最初に問われるのは、なぜ今このタイミングなのかという問いだ。市場に変化が起きているのか、競合の動きがあるのか、自社に何か使えるアセットが生まれたのか。

「今やらないと機会を失う」という感覚を経営者に持ってもらえなければ、判断は先送りされる。逆に言えば、タイミングの根拠さえ明確であれば、経営者は動きやすくなる。業界データや顧客の声など、外部の変化を示す一次情報があるとなお良い。

②「なぜ自社か」(競合優位・自社資産の根拠)

同じビジネスモデルを、他の会社ではなくなぜ自社がやるのかという問いに答えられないプレゼンは弱い。

自社の強みとは、既存顧客との関係、独自のチャネル、蓄積されたノウハウ、ブランド力、技術資産など、他社が簡単に複製できないものだ。「市場が大きい」という話は誰でも言える。「自社だから勝てる理由」を語れるかどうかが、提案の説得力を決める。

③「最初の一手と撤退ライン」(最小投資で何を確認するか)

経営者が最も恐れるのは、大きな投資をしてから「やっぱりダメだった」となることだ。だから、最初にどれくらいの投資で、何を確認できるかを示すことが重要になる。

「まず3ヶ月で〇〇を検証する。費用は〇〇万円。この仮説が確認できたら次のフェーズに進む。確認できなければ撤退する」という構造が見えると、経営者は意思決定しやすくなる。全体の絵を語る前に、最初の一手の設計を丁寧に説明する。

社内プレゼンのストーリー設計(5段構成)

プレゼンのスライドをどう組み立てるかについては、次の5段構成が基本になる。

1段目は現状の課題だ。今、市場や顧客に何が起きているか、それが自社にどう影響しているかを示す。ここは「あなたたちも知っているはずのこと」を確認する場であり、共通認識を作るパートだ。

2段目は機会の説明だ。なぜその課題がビジネスになるのか、どんな顧客がどんな価値にお金を払うのかを説明する。市場規模の数字があればここで出す。

3段目は提案の概要だ。何を、どこまでやるかを具体的に示す。サービス内容、ターゲット、初期の収益モデルをまとめる。詳細はあとで良い。経営者が全体像をつかめることが優先だ。

4段目は初期検証プランだ。最初の3ヶ月で何を確認するか、そのために何をするか、費用はいくらかかるかを示す。ここが最も具体的なパートになる。「最小投資でこの仮説を確認する」という構造を明確にする。

5段目は意思決定の依頼だ。「〇〇について承認をください」と明示する。多くのプレゼンがここを曖昧にして終わる。何を決めてほしいのかを言葉にしないと、経営者は何を承認すれば良いかわからない。プレゼンの最後は必ず「何を決めてほしいか」で締める。

よくある失敗パターン3つ

失敗するプレゼンには、繰り返し現れる共通のパターンがある。

一つ目は、スライドが長すぎることだ。20枚、30枚と作り込んでくるプレゼンは、準備の丁寧さではなく、伝えたいことが整理できていないサインと受け取られる。経営者の判断に必要な情報は5枚から10枚あれば収まるはずだ。多ければ良いというものではない。

二つ目は、「詳細は追って」という逃げを使うことだ。コスト感、人員計画、競合対策など、決めなければならないことを「追って詰めます」とまとめると、経営者は「まだ判断できる状態にない」と受け取る。完璧でなくて良い。概算でも、自分なりの答えを出した上で臨む。

三つ目は、失敗リスクを書かないことだ。リスクを書くと否決されると思うのは誤りで、逆だ。「こういうリスクがある、だからこう対処する」と書いてある提案の方が信頼される。失敗したときにどう撤退するかまで書いてあると、経営者は安心して承認できる。

社内の「反対者」への対処法

プレゼン当日に初めて反対意見が出ると、その場でつぶすことはほぼできない。「持ち帰って検討する」という流れになり、結局立ち消えになる。

対策は一つで、事前に反対しそうな人と1on1で話しておくことだ。プレゼンの内容を共有して、懸念点を聞いておく。当日までに全員の賛同を取り付ける必要はない。「それについてはこう考えている」という答えを用意できれば十分だ。

プレゼン本番では、懸念点をこちらから先に出すという方法が効果的だ。「〇〇というリスクがあると思っています。それについてはこう対処します」と先に言ってしまえば、反対意見の出どころがなくなる。

完全な賛同を目指すのではなく、「条件付き賛成」を引き出すことを目標にする。「〇〇が確認できたら進めよう」という合意が取れれば、それで十分だ。条件付きで動けるなら、その条件を満たすことに集中すれば良い。

よくある質問

Q: プレゼンの時間はどのくらいが適切ですか?

経営会議での新規事業提案であれば、説明10分・質疑10分の計20分を目安にする。時間が長ければ良いわけではなく、短い時間で判断材料を揃えられることの方が重要だ。事前に持ち時間を確認して、そこに収まる構成にする。

Q: 数字(市場規模・売上予測)はどこまで出すべきですか?

精度より根拠が大事だ。「TAMは〇〇億円(〇〇のレポート参照)、初年度は〇〇万円を目標とする根拠は〇〇」という形で、どこから持ってきた数字かを示す。確実な数字がなくても、「概算でこのくらいのオーダー」という感覚を共有できれば意思決定は前に進む。

Q: 何度提案しても通らない場合はどうすれば良いですか?

提案内容より、提案のタイミングと提案先を見直す方が先のことが多い。経営者が今抱えている優先課題と、提案している事業がどう結びつくかを再設計する。また、承認を取ることを最終目標にせず、まず「小さく試せる予算」だけを取りに行くという戦略もある。

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