「在庫の数が合わない」。棚卸しのたびにそう気づいて、慌てて録画を見返した経験はないだろうか。ある食品スーパーの店長は、特定商品の欠品が続くことに気づいてから、過去1週間分の防犯カメラ映像を確認する羽目になった。1日8時間、複数台のカメラを早送りしながら目を凝らし、ようやく怪しい人物のシーンを見つけたのは丸2日後だった。犯人はすでに店を離れ、被害額の回収はほぼ不可能。もっと早く気づけていれば、と誰もが思う。同じような話は無人店舗やオフィスビルでも起きている。深夜、誰もいないはずのフロアに人影が長時間とどまっていたが、翌朝の映像チェックで初めて発覚した、という例も少なくない。異常はすでに録画の中に写っていた。ただ、それを「見返す人」も「気づく仕組み」もなかっただけだ。
防犯カメラの映像は「証拠」にはなっても「予防」にはならない
多くの店舗やオフィスビルには、すでに複数台の防犯カメラが設置されている。しかし、その多くは「何かが起きたあとに確認するための記録装置」として機能しているにすぎない。万引きや不審な侵入が発生している最中にリアルタイムで気づける体制を持つ現場は、実はそれほど多くない。
録画データは事件が起きたあとの証拠にはなる。警察に提出したり、被害状況を裏付けたりする役には立つ。だが、それはすでに被害が発生したあとの話だ。防ぎたかったのは被害そのものであって、あとから犯人を特定することではない。ここに、従来型の防犯カメラ運用が抱える根本的な限界がある。
大量の映像を人が見返す運用はもう現実的ではない
中小規模の店舗であっても、複数台のカメラを24時間稼働させれば、1日あたりの映像量は膨大になる。それを人の目だけで日常的にチェックし続けるのは、時間的にもコスト的にも現実的ではない。結果として、映像は「何かが起きたときにだけ見返すもの」になり、日常的な異常の兆候は見逃され続ける。
かといって、警備員を店内やビル内に常駐させるという選択肢も、中小規模の事業者にとっては重い負担だ。24時間体制で人を配置しようとすれば、人件費だけで年間数百万円規模のコストがかかる。人手不足が続くなかで、警備要員の採用そのものが難しいという声も多い。「監視はしたいが、人を張り付けるほどの余裕はない」というのが、多くの現場の本音ではないだろうか。
AI防犯カメラによる異常検知でできること
ここで役立つのが、AI画像認識を組み込んだ防犯カメラ・異常検知システムだ。カメラの映像をAIがリアルタイムで解析し、あらかじめ設定した条件に当てはまる動きを検知した瞬間に、スタッフのスマートフォンやパソコンに通知を送る。人が映像を四六時中見張る必要はなく、AIが「見張り続ける役」を担ってくれる。
具体的には、次のような検知が可能になる。
- 特定のエリア(バックヤードの出入口、レジ周辺、金庫室など)への侵入や、立ち入り禁止時間帯の人の動きをリアルタイムで検知する
- 店内の特定の棚の前で不自然に長時間滞留する、周囲を何度も見回すといった、万引きにつながりやすいとされる行動パターンを検知する
- 無人時間帯やシャッター後の店舗・施設内での人の存在そのものを検知し、即座に通知する
- 通常の時間帯や曜日と比べて、人の流れや滞在人数が明らかに異なる「異常な混雑」や「不自然な少なさ」を検知する
重要なのは、これが「録画を残す」仕組みではなく「異常が起きた瞬間に気づける」仕組みだという点だ。被害が拡大する前に、あるいは被害そのものが発生する前に、人が現場に駆けつけたり、声をかけたりする判断ができるようになる。
導入時に注意すべきこと
一方で、AI防犯カメラを導入する際には、いくつか気をつけておきたい点がある。
まず誤検知・過検知への対処だ。導入初期は、通常の来店客の動きを不審な行動と誤って検知してしまうことがある。通知が頻発すると、現場スタッフが「またか」と通知そのものを無視するようになり、本当に危険な場面を見逃す本末転倒な状態に陥りかねない。検知条件やしきい値は、実際の運用データを見ながら少しずつ調整していく前提で導入することが望ましい。
次にプライバシーへの配慮だ。AIによる画像解析は、来店客や従業員の行動を常時解析することになるため、何のために・どの範囲を・どのように分析しているのかを、店内掲示やスタッフ向けの説明としてきちんと示しておく必要がある。「監視されている」という不快感を与えず、「安心・安全のための仕組み」として受け止めてもらえるよう、目的を丁寧に伝える姿勢が欠かせない。
そして、既存カメラ設備の流用可否も現実的な論点になる。すでに設置されているカメラの解像度や設置角度によっては、AI解析に十分な画質が得られず、カメラ自体の入れ替えが必要になるケースもある。導入を検討する際は、まず既存設備でどこまで対応できるのかを確認し、必要な範囲だけを追加投資する形で進めるのが無理のないやり方だ。
まずは限定エリアからの試験導入が現実的な始め方
いきなり店舗全体・施設全体にAI異常検知を導入する必要はない。実際には、万引き被害が集中しているエリア、無人になる時間帯の出入口、バックヤードなど、リスクが特に高い箇所に絞って試験導入し、効果と運用の勘所を確かめるところから始める事業者が多い。
その際に大切なのが、警備員やスタッフとの役割分担を最初に決めておくことだ。AIはあくまで「異常に気づく」役割を担うものであり、実際に声をかける、駆けつける、状況を判断するのは人の仕事として残る。通知を受けたときに誰がどう動くのかというフローを事前に決めておくことで、せっかくの検知が現場で活かされないという事態を防げる。限定的な範囲で運用を回しながら、通知の精度やスタッフの動き方を調整し、手応えを確認したうえで対象エリアを広げていくのが、無理のない進め方だ。
店を開け、施設を開き、そこに人を迎え入れる。その裏側で、限られた人数のスタッフや警備員が、誰にも気づかれないところで毎日この場所の安全を守り続けている。すべての異常を人の目だけで見張るのはもう限界かもしれない。それでも、現場に立ち続け、判断し、駆けつけてきた人たちがいたからこそ、その場所は今日まで安心して人を迎えられる場所であり続けてきた。テクノロジーが担えるのは、気づきを早めることまでだ。壁を越えて、見えない場所で日々の安全を支え続けてきたすべての人たちに、敬意を込めて。