「うちも新規事業をやりたい。お前がやれ」

この一言から始まる3ヶ月は、多くの担当者にとって人生で最も孤独な時間のひとつだ。前任者がいるわけでもなく、正解が書いてある本があるわけでもない。「どうすれば良いか分からない」まま時間だけが過ぎ、3ヶ月後には「で、何が分かったの?」と詰められる。

最初の3ヶ月で多くの担当者が陥るのは、大きく2つのパターンだ。

1つは「調査ばかりして何も動かさない」。市場調査、競合調査、先行事例収集を繰り返し、いつまでも「まだ準備中」になる。もう1つは「勝手に動いて承認が取れない」。熱意はあるが根回しが甘く、経営者から「なんでそんなことやってるの?」と言われる。

この2つの分かれ道を避けるには、最初の3ヶ月を「調査と実行のバランス」ではなく「誰に何を確認するための期間か」という設計から入る必要がある。本稿では、その設計を具体的なアクションとして整理する。

まず「何を決めるための3ヶ月か」を合意する

最初にやるべきことは、タスクリストを作ることではない。経営者・上司と「この3ヶ月で何を確認するのか」を合意することだ。

「3ヶ月後に成果を出せ」と言われたとき、その「成果」が何を指すかを確認しないまま走り出すと、必ず後からズレが生じる。経営者は「プロトタイプができてほしかった」と思っており、担当者は「市場調査を完成させた」と思っている。この認識のズレが、3ヶ月後の「で、それで?」につながる。

最初にすべきは「成果物の合意」ではなく、「何を確認するための期間か」の合意だ。具体的には、以下のような問いを経営者にぶつける必要がある。

  • 3ヶ月後に何が出ていれば「続けていい」と判断しますか?
  • 3ヶ月後に何が分かっていれば「方向性を変えていい」と判断しますか?
  • 3ヶ月後に何が出ていれば「やめる」判断をしますか?

例として「3ヶ月で10人に検証インタビューを行い、想定ターゲットの課題が実在するかを確認する」という合意があるとする。このレベルで合意できていれば、3ヶ月後の報告はシンプルになる。「10人に聞いた。8人が同じ課題を持っていた。つまり課題は実在する。次は解決策を検証したい」という流れだ。

この合意をしないまま走り出すと、担当者はゴールを自分で設定せざるを得ない。そして3ヶ月後、経営者とのゴールが噛み合わず、詰められる。

最初の1ヶ月でやること

既存事業と新規事業の境界を決める

「新規事業も既存業務も両方やれ」という状況は、多くの会社で普通に起きる。だが「兼務」と「片手間」は違う。片手間でやった新規事業が半年後に成果を出せた例は、ほとんどない。

最初の1ヶ月でやるべきことの一つは、「自分の時間の何割を新規事業に使えるか」を上司・経営者と明示的に合意することだ。3割でも5割でもいい。ただし、「空いた時間でやれ」という曖昧な指示をそのまま受け入れてはいけない。「空いた時間」は必ず既存事業で埋まる。

この会話は気まずいかもしれないが、やらなかった場合のリスクの方が大きい。「やれと言われたのに時間が取れなかった」は、3ヶ月後の言い訳にならない。最初に数字で合意しておくことが、後の自分を守る。

「課題仮説」を1枚の紙に書く

新規事業担当者の多くが、最初の数週間を「調査と情報収集」に費やす。だが調査の前に、仮説が必要だ。

課題仮説とは、「誰が」「どんな状況で」「何に困っているか」を一文で書いたものだ。たとえば「中小企業の管理部門担当者は、経費精算を手作業で行うことに月10時間以上かかっており、それを苦痛に感じている」というレベルでいい。

この仮説は完成品である必要はない。最初は粗くていい。重要なのは、「調査を通じて何を確認しようとしているか」という軸を持つことだ。仮説なき調査は、集めた情報の量だけが増えて何も分からないという状態を生む。

1枚の紙(またはドキュメント1ページ)に書いたこの仮説が、最初の顧客インタビューの設計図になる。

1人以上の「社内の理解者」を作る

新規事業担当者が孤立するのは、たいてい「全員に理解してもらおうとする」からだ。反対者をゼロにしようとするほど、消耗する。

最初の1ヶ月でやるべきことは、1人でも「応援してる」と言ってくれる社内の人間を作ることだ。経営者でも、部門の先輩でも、他部署の同期でもいい。この1人が、後に壁打ち相手になり、社内での推進力になる。

理解者を作る最も手っ取り早い方法は、相手に「何が気になるか」を聞くことだ。「こういう事業を考えているんですが、どんな懸念がありますか?」という問いは、相手を批判者ではなく協力者として巻き込む入り口になる。

2ヶ月目でやること

仮説を顧客に当ててみる

1ヶ月目に書いた課題仮説を、実際の顧客候補に当てる時期だ。難しく考える必要はない。5人に話を聞くだけでいい。

インタビューの目的は「仮説を証明すること」ではなく「仮説がどこまで合っていて、どこがズレているかを知ること」だ。5人に聞いて全員から「確かに困っている」という答えが返ってくることは稀だ。多くの場合、「確かに困っているが、それは自分ではなく別の役職の人だ」「困ってはいるが、それよりもっと深刻な別の問題がある」という返答が来る。

ここで仮説が外れることを「失敗」と捉えてはいけない。仮説が外れることは、進捗だ。「何が分かったか」が増えていることを意味する。修正された仮説は、最初の仮説よりもはるかに精度が高い。

「やらないことリスト」を作る

2ヶ月目になると、視野が広がる。インタビューや調査を通じて「あれもできそう、これも面白そう」という選択肢が増えてくる。この時期、担当者の多くは「全部拾おうとする」。

だが全部拾うと、3ヶ月後に「何も完成していない」という状態になる。

やるべきことのリストを作るのと同時に、「今期やらないことのリスト」を作る。「競合分析は今期やらない」「プロトタイプ開発は今期やらない」「イベント出展は今期やらない」という形で明示する。これは手を抜くことではなく、集中するための設計だ。

このリストを上司・経営者と共有しておくと、後から「なんであれをやらなかったの?」という詰め方を防げる。

報告の型を作る

2ヶ月目から、報告を「型」にする。毎週でも隔週でもいいが、「今週何を試して、何が分かったか」を経営者に伝える場を定期的に設ける。

この報告は、進捗確認のためではない。「継続する許可を更新し続ける」行為だ。

新規事業は、経営環境が変わればすぐに「やっぱり止める」という判断になり得る。定期的に報告していれば、担当者は「今の経営者の関心度」をリアルタイムで把握できる。逆に報告を怠ると、ある日突然「あの件、もう止めようか」という話になり、担当者は「なぜ?」と混乱する。

報告の型は難しくなくていい。「試したこと・分かったこと・次にやること」の3行で十分だ。

3ヶ月目でやること

「続けるか・変えるか・やめるか」の判断材料を揃える

3ヶ月目は「答えを出す」期間ではない。「続けるかを判断できる材料を揃える」期間だ。

集めるべき材料は3つある。

  • 課題は本当に存在するか:インタビューや実験を通じて、想定した課題が実在することを確認できたか
  • 自分たちが解決できるか:自社のリソース・強みで、その課題にアプローチできる根拠があるか
  • 払う人がいるか:価値を感じて対価を支払う意思がある人が、一定数いそうか

この3つすべてに「はい」と言える状態であれば、続ける判断ができる。どれかが「分からない」の場合は、次の3ヶ月でその「分からない」を確認する期間にすることを提案できる。

次の3ヶ月に何を試すかを提案する

3ヶ月の成果報告は、「何が分かったか」だけで終わってはいけない。「次に何をするか」とセットで提案する。

経営者が本当に聞きたいのは「次にどう動くか」だ。「分かったことだけ」を発表して終わると、経営者は「で、どうするの?」という反応になる。この反応は、担当者にとって非常に消耗する。

「3ヶ月で課題の実在は確認できた。次の3ヶ月では、解決策の仮説を3パターン作り、うち1パターンを小規模に試す」というレベルまで提案して初めて、経営者は「この担当者に任せられる」と感じる。

「担当者が孤立する」という本当のリスク

最初の3ヶ月で最も危険なのは、スケジュールの遅れでも、仮説の外れでもない。担当者の「孤立」だ。

誰にも理解されないまま走り続けると、半年後に担当者は離脱する。それは「やる気がなくなった」からではなく、「一人で走り続けることの限界」が来るからだ。新規事業の担当者に最も多い離脱理由は、成果が出ないことではなく「誰も分かってくれない」という感覚だ。

孤立を防ぐための仕組みは、3つある。

1つ目は社内の報告頻度を上げること。報告は「詰められるリスク」ではなく「理解者を増やすチャンス」として捉える。2つ目は外部コミュニティに参加すること。同じような立場の担当者と話せる場があると、「自分だけじゃない」という安心感が生まれる。3つ目は壁打ち相手を確保すること。社内・社外を問わず、「何でも話せる1人」を意識的に作る。

この3つを最初の3ヶ月で意識的に設計できた担当者は、半年後も走り続けている。設計しなかった担当者は、半年後に「あの新規事業、どうなったんだっけ」という状態になりやすい。

よくある質問

Q: 新規事業の担当者は兼務と専任、どちらが望ましいですか?

A: 理想は専任だが、リソース的に難しい場合が多い。兼務であれば「週の何割を新規事業に使うか」を数字で合意することが前提だ。「空いた時間で」という曖昧な指示のままでは、必ず既存業務に押しつぶされる。最低でも週2日分(4割)の時間を確保できないなら、「今期は準備期間として情報収集に留める」と明示して範囲を絞る方が現実的だ。

Q: 最初の3ヶ月で黒字化を求められています。どうすれば良いですか?

A: まず「黒字化の定義」を確認する必要がある。新規事業の3ヶ月での黒字化は、ほとんどの場合現実的ではない。経営者が「黒字化」と言っているとき、その意図が「収益の確認」なのか「コストの回収」なのか「事業としての成立性」なのかによって、必要なアクションが変わる。最初の合意で「この3ヶ月で何を確認するか」を明文化し、「3ヶ月での黒字化」が本当にゴールとして適切かを経営者と確認し直すことを勧める。

Q: 上司が新規事業に理解がありません。どう巻き込めばいいですか?

A: 上司を「理解させよう」とするより、「上司が何を心配しているか」を理解することが先だ。多くの場合、上司の懸念は「既存業務が疎かになる」「リスクを取りたくない」「自分の評価に影響する」のいずれかだ。この懸念に正面から向き合い、「既存業務への影響は週○時間に留める」「万一失敗しても会社への損失はこの範囲に収まる」という形で具体的に答えると、反対から中立に変わりやすい。全員の賛成を得ようとしないこと。中立でも十分だ。

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