人を増やしたのに、なぜか仕事が増えた
ある経営者から、こんな話を聞いたことがある。
「スタッフを5人から8人に増やした。でも仕事のスピードは変わらないし、むしろ自分の確認作業が増えた気がする」
笑えない話だ。人件費は増えた。管理の手間も増えた。それなのに、会社としての処理能力はほとんど変わっていない。
これは珍しいことではない。規模を問わず、成長途中の会社でよく起きる。問題は、人が足りないのではなく、人が増えたときに仕事の流れが設計されていないことにある。
人が増えると、なぜ遅くなるのか
人数が増えれば増えるほど速くなる、というのは幻想に近い。少なくとも、業務の流れが整備されていない状態では。
たとえば、受注した案件の情報をどこに記録するかが人によって違う。Aさんはスプレッドシート、Bさんはチャット、Cさんは頭の中。新しく入った人は、どこを見ればいいかわからない。結果、誰かに聞く。聞かれた人は作業を止める。
これが毎日、あちこちで起きている。
人が3人なら、互いに状況を把握できる。でも8人になると、全員の動きを把握している人がいなくなる。そこで「確認」が発生する。確認のための会議が生まれる。会議の議事録を誰が書くかでまた一悶着ある。
ボトルネックは「人の能力」ではなく「流れの設計」
遅い会社を観察していると、たいてい一か所に仕事が詰まっている。その詰まり場所には、経営者か、経験年数の長いスタッフがいる。
承認が必要、確認が必要、判断が必要。そのたびに、その人のところへ仕事が集まってくる。本人は一日中、他の人の仕事に対応しながら、自分の仕事もこなしている。
これはその人が優秀だからではなく、「その人を通さないと仕事が進まない」という構造が固まってしまっているからだ。人を増やしても、ボトルネックが太くなるだけで、流れは速くならない。
速くなる会社は何が違うのか
一方で、人が増えるたびに確実に処理能力が上がっていく会社もある。そういう会社の共通点は、「仕事の流れが誰でも追えるようになっている」ことだ。
案件がどの状態にあるかが一覧で見える。次に誰が何をすべきかが明示されている。判断が必要な場面と、決まったルールで動ける場面が分けられている。
新しく入ったスタッフが、先輩に聞かなくても動ける。ミスが起きたとき、どこで起きたかがすぐわかる。経営者は細かい確認作業から離れて、もっと大きな判断に集中できる。
システムより先に必要なこと
ここで多くの会社が間違える。「じゃあシステムを入れよう」となる。
でも、業務の流れが整理されていないままシステムを入れると、混乱がデジタルに移るだけだ。誰も使わなくなる。あるいは、一部の人だけが使って、結局また属人化する。
必要なのは、まず「どういう順番で、誰が、何を判断して、どこに記録するか」を整理することだ。その流れが整理されて初めて、システムが意味を持つ。
経営者から「うちに合うシステムを作ってほしい」と相談を受けるとき、最初にやるのはヒアリングではなく観察だ。実際の現場でどんな順番で仕事が動いているか、どこで止まっているかを見る。そこから業務の流れを整理して、初めてシステムの話になる。
「人を増やす前にやるべきことがある」という気づき
次の採用を考えている経営者に、一度だけ立ち止まって考えてほしいことがある。
今いる人たちが、1日のうちどれくらいの時間を「確認」「転記」「報告」に使っているか。その時間が半分になれば、新しい人を雇わなくても処理できる仕事量が増えるかもしれない。
人を増やすことは悪くない。でも、流れが整っていない状態で人を増やすと、管理コストが増えるだけになることがある。先に業務の流れを見直すほうが、結果として早く成長できる場合が多い。
「仕事が遅い」「楽にならない」という感覚があるなら、それは人の問題ではなく設計の問題である可能性が高い。その前提から見直すと、打ち手が変わってくる。
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