経理のクラウド化を検討しているものの、「何から手をつければいいかわからない」という声を、中小企業の経営者や経理担当者からよく耳にします。請求書、経費精算、会計ソフト——それぞれバラバラに動いている業務を一本化しようとすると、つい「全部まとめて一気に移行しよう」という発想になりがちです。しかしこのアプローチが、現場の混乱と挫折を招く最大の原因です。
結論から言うと、経理のクラウド化は3つのステップに分けて進めることで、現場への負荷を抑えながら確実に定着させることができます。そしてその入口として今もっとも有効な動機が、電子帳簿保存法への対応です。「やるべきかどうか」を考える時期はすでに終わっており、「どう進めるか」を決める段階に来ています。
なぜ「一気にやる」と失敗するのか
クラウド会計ツールを導入した直後に運用が止まってしまうケースには、ほぼ共通したパターンがあります。ツールの選定と設定に時間とコストをかけたにもかかわらず、日常業務での使い方が定まらないまま本稼働を迎えてしまうのです。
問題の根本は、ツールの問題ではなく「誰が何をいつやるか」というフローが整理されていないことにあります。たとえば請求書の発行は営業担当が行い、承認は経営者、入金確認は経理——このような分業が従来の紙やExcelベースで成立していた場合、クラウドツールに移行した瞬間に「どこで誰が何をするのか」が宙に浮きます。ツールを入れる前にフローを整理する、この順序を間違えないことが最初のポイントです。
ステップ1|まず請求書の電子化から始める
最初に手をつけるべきは請求書の電子化です。理由は明確で、電子帳簿保存法の改正により、2024年1月以降に電子で受け取った請求書はデータのまま保存することが義務化されています。紙に印刷して保管するという対応は原則として認められなくなっており、法的な観点からも対応を先延ばしにできません。
実務的には、freeeやマネーフォワード クラウド請求書といったツールを使って、請求書の発行・受取・保存を一元管理することが現実的な出発点です。これらのツールはPDFでの送受信に対応しており、タイムスタンプや検索要件といった電子帳簿保存法の要件を満たした形でデータを保存できます。
この段階で重要なのは、取引先とのやり取りの変化を丁寧に管理することです。紙の請求書を送り続けている取引先、PDFメールに切り替えてほしい取引先、すでにクラウド上で完結している取引先——これらを整理して、どの取引先との請求フローをどう変えていくかをリスト化しておくと、後の工程がスムーズになります。
ステップ2|経費精算をデジタルに移す
請求書の流れが安定してきたら、次に経費精算のクラウド化に着手します。領収書の手入力、Excelでの集計、月末の締め処理——これらを紙とアナログで回している企業ほど、クラウド化の恩恵が大きい領域です。
マネーフォワード クラウド経費やfreee経費精算では、スマートフォンで領収書を撮影するだけでデータが自動読み取りされ、申請から承認、支払いまでの一連のフローをシステム上で完結させることができます。経費の申請者側も承認する経営者・経理担当者側も、紙のやり取りが不要になります。
ここで注意すべき点は、承認フローの設計です。誰が申請し、誰が承認し、誰が支払い処理をするのか——このフローを事前に明文化しておかないと、ツールを入れた後も「結局メールや口頭で確認している」という状況が続きます。ツールの導入と同時に、社内のルールをシンプルな形で文書化することをおすすめします。
ステップ3|銀行連携と自動仕訳で会計を締める
最後のステップが、銀行口座やクレジットカードとの連携による自動仕訳です。これが整うと、入出金データが会計ソフトに自動で取り込まれ、仕訳の手入力という最も時間のかかる作業が大幅に削減されます。
freee会計やマネーフォワード クラウド会計は、主要な銀行やカード会社との連携に対応しており、過去の取引データをもとにAIが勘定科目を提案する機能も備えています。最初はAIの提案を確認・修正しながら使い続けることで、徐々に自社の仕訳パターンが学習され、承認作業だけで月次決算が進むようになっていきます。
この段階に到達したとき、経理担当者の仕事は「入力する」から「確認してコントロールする」へと変わります。それは業務の効率化であると同時に、経理という仕事のあり方そのものの変化です。
ツールより先に整理すべきこと
ここまで3つのステップを説明しましたが、どのツールを選ぶかより先に整理しておくべきことがあります。それは「現状の業務フローの棚卸し」です。
請求書は誰が作っていて、どこに保存されていて、入金確認は誰がどのタイミングでやっているか。経費の申請から支払いまでに何日かかっていて、どこがボトルネックになっているか。これらを一度書き出してみると、クラウド化によって解決できる課題と、そもそも運用ルールを見直すべき課題が分離されます。
ツールは業務フローを自動化・効率化するための手段であって、フローそのものを設計してくれるわけではありません。この前提を持ったうえでツール選定に入ると、「導入したけど使いこなせなかった」という事態を避けやすくなります。
よくある質問
freeeとマネーフォワード、どちらを選べばいいですか?
どちらも中小企業向けに設計されており、機能面での大きな差はありません。選ぶ際の判断軸として実用的なのは、顧問税理士がどちらを使っているかという点です。税理士側が普段使っているツールに合わせると、月次レビューや決算処理の連携がスムーズになります。税理士がいない場合は、UIの使いやすさや連携したい銀行・カードへの対応状況で比較するのが現実的です。
電子帳簿保存法への対応は、クラウドツールを入れれば自動的に満たせますか?
主要なクラウド会計・請求書ツールは電子帳簿保存法の要件に対応した設計になっていますが、「ツールを入れるだけで完了」とはなりません。適切な設定を行うこと、電子データで受け取った書類を正しい方法で保存すること、検索要件を満たした運用ルールを整備することが必要です。導入後に税理士や専門家に確認してもらうことを強くおすすめします。
社員のITリテラシーに差があります。全員が使えるか不安です。
経費精算ツールの場合、申請者はスマートフォンで領収書を撮影して送信するだけという操作に集約されるため、ITが苦手な方でも数回使えば慣れるケースがほとんどです。一方で、承認者や経理担当者側はより多くの操作を覚える必要があります。導入時に小規模なテスト運用期間を設け、つまずきやすいポイントを事前に把握してから全社展開するという手順が、現場の混乱を最小限に抑えます。
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