「うちはまだシステムは早い」。この言葉を、社内の誰かが言うたびに、少しずつ機会が失われている会社がある。
これは、そういう会社のひとつの話だ。業種は関係ない。規模も関係ない。「まだ早い」という判断をし続けた結果、気づいたときには「遅かった」という話が、中小企業の現場では静かに積み重なっている。
「まだ早い」の意味を、正確に確認したことがあるか
「うちはまだシステムは早い」という言葉には、いくつかの意味が混在している。「まだ規模が小さい」「まだ業務が固まっていない」「まだ予算がない」「まだ必要性を感じていない」——どれなのかが、実は曖昧なまま使われていることが多い。
あるとき、10人ほどの会社の社長に「システムをいつ入れるつもりですか」と聞いたことがある。「もう少し大きくなってから」という答えが返ってきた。では「どのくらいの規模になったら」と聞くと、「20人くらいになったら」と言った。なぜ20人かと聞くと、「なんとなく」という答えだった。
根拠がない基準を、判断の軸にしている。これは珍しいことではない。「まだ早い」という感覚は本物だが、その感覚の中身が言語化されていないまま、時間だけが過ぎていく。
小さいうちに入れるほうが、ずっと安い
「規模が大きくなってからシステムを入れる」という判断には、ひとつの見落としがある。人が増えるほど、システムを入れるコストは上がる、ということだ。
人が少ないうちは、ヒアリングする相手が少ない。業務の流れがシンプルだから、設計も複雑にならない。「今まで通り」にこだわる人も少ないから、変化への抵抗も小さい。逆に言えば、人が増えてからシステムを入れようとすると、多くの人のやり方を整理しなければならず、導入にかかる時間も費用も増える。
あるサービス業の会社は、従業員が5人のときに「まだ早い」と判断し、20人になったときにシステムの検討を始めた。そのとき、業務フローが5人それぞれの「個人の工夫」で成り立っていることがわかった。誰がどうやっているかをまず整理するだけで、3ヶ月かかった。5人のときであれば、1週間もあれば済んだはずだった。
「業務が固まっていない」は、永遠に解決しない
「まだ業務の流れが固まっていないから、システムを入れるのは早い」という判断もよく聞く。これは一見、合理的に聞こえる。でも実際には、業務が「固まる」という状態は、放置していれば来ない。
業務が固まるのは、誰かが意図して整理したときだ。整理するためには、今どうなっているかを見える化する必要がある。見える化するためには、記録する仕組みがいる。その仕組みが、まさにシステムだ。つまり「業務が固まったらシステムを入れる」という順番ではなく、「システムを入れることで業務が固まる」という順番になることが多い。
「固まっていないから入れられない」という理由は、「入れないから固まらない」という現実を作っている場合がある。
成長が止まる「詰まり」は、業務から来る
事業が成長していくと、ある時点で「売上は増えているのに、利益が増えない」「人は増えているのに、仕事が回らない」という状態が来る。これを「スケールの壁」と呼ぶことがある。
この壁の正体のほとんどは、業務の手作業・属人化・情報のばらつきだ。営業が受注した内容を、手で別の書類に転記している。顧客情報が、担当者の頭の中にある。在庫の状況を、毎朝誰かが確認して回っている。こうした「当たり前の手間」が積み重なって、成長のボトルネックになる。
システムを入れていれば起きなかった詰まりが、気づかない形で会社の成長を抑えている。売上が伸びなくなったときに原因を探すと、実は3年前から積み上がっていた業務の問題だった——という話は、珍しくない。
「入れてみたら合わなかった」を怖がる必要はない
「システムを入れたけど現場に合わなかった」という失敗談を聞いたことがある。だから慎重になっている、という経営者もいる。その慎重さは正しい。でも、失敗の原因は「入れたこと」ではなく、「入れる前に触れなかったこと」にある。
仕様書や提案資料だけで「これでいきましょう」と決めて、完成したものを触ってみたら「思っていたのと違う」——この構造が、失敗を生んでいる。
最初から動くものを触って、「これだ」か「ここが違う」かを確かめてから決める進め方であれば、「入れてみたら合わなかった」はほとんど起きない。失敗を生む構造を変えずに「失敗が怖いから入れない」を続けると、怖さが解消されないまま時間だけが過ぎる。
「まだ早い」の本当のコストを計算したことがあるか
「まだ早い」という判断には、コストがかかっている。ただ、そのコストは請求書として来ない。だから気づきにくい。
毎月、誰かが手で転記している時間。毎週、情報を集めるために社内をたらい回しにされている時間。毎日、「あの件どうなった」と確認する電話とメール。これらを合計すると、月に何十時間になるか。その時間に時給をかけると、どのくらいの金額になるか。
「システムに100万円かかる」という数字は見えやすい。でも「手作業のままでいることで毎月30万円のコストがかかっている」という数字は、見えにくい。見えにくいコストを無視して、見えやすいコストだけを判断の根拠にしていると、判断が歪む。
「早い」か「遅い」かは、今の業務が答えを持っている
システムを入れるタイミングが「早い」か「遅い」かは、自社の業務を見れば答えが出る。毎日繰り返される手作業はあるか。情報が一か所に集まっていないために確認が発生しているか。担当者が変わると引き継げない情報があるか。
一つでも当てはまるなら、「まだ早い」ではなく「そろそろ」の段階にいる可能性が高い。判断の根拠を「なんとなく」から、「今の業務の実態」に変えるだけで、見えてくるものが変わる。
最初の一歩は、大きく踏み出す必要はない。「うちの業務を見てもらえますか」という一言でいい。話を聞いてもらうだけで、どのくらいのことができるかが、はっきりしてくる。
SYSTEM DEVELOPMENT
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