結論を先に。 既存システムを開発したベンダーと、新しく追加する機能を開発するベンダーが別会社になると、不具合が起きたときにどちらの責任か曖昧になりやすいのは、両社が相手のシステムの内部構造を把握しておらず、かつ契約上「自社の担当範囲」の外側については保証しない前提で仕事をしているためです。連携部分(API・データ連携・共通のデータベース)で問題が起きたとき、A社は「B社側の仕様が原因」、B社は「A社側の仕様変更が原因」と主張し合い、発注者が板挟みになるケースは珍しくありません。この記事では、複数ベンダー体制で責任の所在が曖昧になる構造と、発注前に決めておくべきことを整理します。

なぜ複数ベンダーで責任の所在が曖昧になるのか?

理由は大きく3つあります。

  • 連携部分の仕様を「相手が把握している前提」で進めてしまう:各ベンダーは自社が担当する範囲の仕様は把握していますが、連携先システムの内部仕様までは把握していません。連携部分に不具合が起きたとき、双方が「相手の仕様変更が原因では」と疑い合う構図になります。
  • 契約書に連携部分の責任分界点が明記されていない:個別の開発契約は自社の担当範囲についてのみ保証を定めることが一般的で、「連携部分で問題が起きた場合にどちらが対応するか」までは契約上明記されていないことが多くあります。
  • 発注者側が技術的な切り分けをできない:不具合の原因がA社側かB社側かを技術的に切り分けるには専門知識が必要で、発注者自身では判断できず、ベンダー同士の主張をそのまま受け止めるしかない状況に陥ります。

現場での実感。 複数ベンダーが関わる案件のご相談では、「トラブルが起きるたびに、2社の間でボールの投げ合いになる」というお話をよく伺います。どちらのベンダーも悪意があるわけではなく、契約上「自社の範囲外」については責任を負いようがないというだけです。発注前に責任分界点を文書化しておくだけで、この板挟みの多くは防げます。

責任の所在を曖昧にしたまま進めるとどうなるか?

不具合の原因究明にベンダー間の交渉時間がかかり、修正が遅れます。修正費用についても「相手の責任なので自社では対応しない」という主張がぶつかり、発注者が想定外の追加費用を負担することもあります。何より、発注者自身が技術的な仲裁役を担わされる状態が続くと、本来の業務に充てる時間が削られます。

責任分界点を明確にするとは、何を決めることか?

すべての技術仕様を発注者が理解する必要はありません。まず押さえるべきは、連携部分の「どこからどこまでを誰が保証するか」を契約段階で文書化するという発想です。

連携インターフェース(API・データ形式)の仕様を文書化し両社で共有する

連携部分の仕様書を発注者が仲介して両ベンダーに共有し、どちらも同じ情報を参照できる状態にすることで、認識齟齬による責任の押し付け合いを防ぎます。

連携部分の不具合対応フローを契約前に決めておく

「連携部分で不具合が起きた場合、まずどちらが一次切り分けを行うか」を契約段階で決めておくことで、問題発生時の対応スピードが変わります。

仕様変更時の相互通知ルールを設ける

一方のベンダーが仕様変更を行う際、もう一方への事前通知を義務づけるルールを設けることで、意図しない連携部分の破損を防げます。

単独ベンダーと複数ベンダー体制、何が違う?

観点単独ベンダー複数ベンダー(分界点未整理)
不具合発生時の対応1社が一貫して対応原因の押し付け合いが起きやすい
仕様変更時の影響範囲自社内で完結し把握しやすい相手への影響に気づきにくい
発注者の負担窓口が一本化され少ない仲裁役を担わされることがある

発注前に確認しておきたいポイントは?

  1. 連携部分の担当範囲を契約書に明記する:「どこまでが自社の担当範囲か」を各ベンダーとの契約書に具体的に記載してもらいます。
  2. 連携テストを両ベンダー立会いのもとで実施する:本番リリース前に、連携部分の動作確認を両社が同席して行うことで、認識齟齬を早期に発見できます。
  3. 発注者側で仕様の全体像を把握しておく:技術的な詳細まで理解する必要はありませんが、「どのシステムがどう連携しているか」の全体図は発注者側でも把握しておくことをおすすめします。

よくある質問

Q. 複数ベンダーに発注するのは避けたほうがいいのでしょうか?
A. 一概に避けるべきとは言えません。それぞれの分野に強みを持つベンダーを使い分けるメリットもあります。重要なのは、責任分界点を事前に文書化しておくことです。

Q. 既にトラブルが起きてから責任分界点を決めることはできますか?
A. 可能ですが、トラブル発生後は各社の主張が対立しやすく、合意形成に時間がかかります。できる限り契約前・連携開発の着手前に決めておくことをおすすめします。

Q. 発注者自身に技術知識がなくても分界点を決められますか?
A. 技術的な詳細をすべて理解する必要はありません。第三者の技術顧問やシステム開発会社に間に入ってもらい、分界点の整理を支援してもらう方法もあります。

Q. まずは何から手をつければいいですか?
A. 現在発注しているベンダーが何社あり、それぞれがどの範囲を担当しているかを一覧化するところから始めてください。一覧化する過程で、責任分界点が曖昧な部分が見えてきます。

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