「全社でChatGPTを使えるようにした。でも3ヶ月後には使っている社員がほぼゼロになっていた」——AI活用推進プロジェクトでよく耳にする現実だ。何が起きたのか、同じ失敗を繰り返さないためにどうすれば良いのかを解説する。

ある製造業企業の事例

従業員120名の製造業A社。2024年に経営陣が「全社AI活用」を宣言し、ChatGPTの法人プランを契約して全社員にアカウントを配布した。

当初は使用率が高く、業務効率化に期待が高まった。しかし半年後に利用状況を確認すると、月1回以上使っている社員は全体の8%程度。大半の社員は「何に使えばいいかわからない」「試したけど答えが信用できない」という理由で使うのをやめていた。

現場が使わなくなった3つの理由

この事例から見えてくる失敗の構造は、多くの企業に共通している。

  • 「何に使えばいいか」の具体例がなかった。アカウントを配布しただけでは、日常業務のどの場面でAIを使うかが個人の創意工夫に委ねられる。使い方のイメージが持てない人は、試す前に止まってしまう
  • 業務フローとの接続がなかった。AIツールが既存の業務フローの中に組み込まれておらず、「別のツール」として存在していた。使うためには既存の作業を中断してAIに切り替える必要があり、面倒だと感じた人が離れていった
  • 成功体験の共有がなかった。「AIでこの作業が10分になった」「この文書はAIで書いた」という社内での成功体験の共有がないと、効果を実感できない社員は徐々に使わなくなる。誰かの成功が他の人の使用動機になる設計が欠けていた

AI活用を根付かせた企業との違い

一方、AI活用が社内に定着した企業には共通点がある。まず「全社に一斉展開」ではなく、特定の部署・特定の業務から小さく始めた。そこで具体的な成果が出てから横展開した。次に、AIを使った業務フローを「標準の手順」として定義し直した。AIを使うことが「特別な行動」ではなく「普通の仕事の進め方」に組み込まれた。

AI導入を成功させる3つの対策

  • 業務ユースケースを先に定義する:「ChatGPTを導入する」ではなく「この業務のこのステップにAIを使う」という具体的な使用シーンを決めてから展開する
  • 先行ユーザーを作って成功体験を見える化する:まず意欲的な社員5〜10名に試験的に使ってもらい、効果が出た事例を社内で共有する場を設ける
  • 使わないことのコストを見える化する:AI活用が定着しない組織の共通課題は「使う理由がない」こと。競合や業界トレンドと照らし合わせて「使わないことのリスク」を具体的に示すことで、利用の動機が生まれる

オルアナの視点——ツールは入り口、変わるのは業務の設計

AIツールを導入することとAIを活用することは別物だ。前者はアカウントを配布する行為であり、後者は業務フロー・評価基準・情報共有の仕組みまで変える行為だ。ツールだけ入れて業務設計を変えなければ、3ヶ月後には誰も使っていないという結果になる。私たちが支援する時は、ツール選定よりも「何の業務をどう変えるか」から始める理由がここにある。


よくある質問

Q. AI活用の社内推進を担当する人材はどんなスキルが必要ですか?

技術的な知識よりも、業務への理解と現場との信頼関係が重要です。「AIが何ができるか」を知っていることより、「この業務のどこにAIが使えるか」を業務担当者と一緒に考えられる人材が推進役に向いています。

Q. ChatGPT以外のAIツールも検討すべきですか?

用途によって適したツールが異なります。ChatGPTはテキスト生成・要約・翻訳等に強く、ClaudeはコードやドキュメントのコンテキストをAIに整理させる用途に強みがあります。まずは一つのツールで成功体験を作ることが先決です。

Q. 経営者がAI活用を推進しているのに現場が動かない場合、どうすればよいですか?

経営層のトップダウンだけでは現場に定着しにくいケースは多いです。現場の中にAI活用に意欲的な人材を見つけて、その人を「ロールモデル」として育成・支援する方法が効果的です。トップダウンとボトムアップを組み合わせることで定着率が上がります。

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