経理の「手作業」をゼロにする方法
業務洗い出しと改善の第一歩
「また月末か…」
経理担当者の方なら、誰もが一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。山積みの請求書、領収書の山、Excelシートとにらめっこする毎日。電卓を叩き、数字を転記し、確認に次ぐ確認。もしかしたら、会社の誰よりも、紙と数字と格闘しているのは経理担当者かもしれません。
あなたの「手作業」、その裏にある見えないコストと負担
「これは手作業でやるしかない」
そんな風に諦めていませんか? 経理の仕事には「そういうものだ」と片付けられがちな手作業が溢れています。例えば、以下のような業務に心当たりはありませんか?
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紙の請求書や領収書を目視で確認し、手入力で会計ソフトに仕訳を登録している
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Excelで作成した集計表を、別のExcelシートに手作業でコピー&ペーストしている
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銀行口座の入出金明細を、紙の通帳を見ながら手入力で会計ソフトに反映させている
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取引先ごとの売掛金・買掛金を、一つひとつ目視でチェックしている
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従業員の経費精算書を、領収書と突き合わせながら手作業でチェックしている
これらの手作業は、一見すると「日常業務」に過ぎないように思えます。しかし、その一つひとつが、実は会社全体にとって大きな「見えないコスト」となっています。
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人件費
手作業に費やされる時間は、そのまま人件費に直結します。手作業が多いほど、担当者の業務時間が増え、残業代が発生したり、新規採用の必要性が出てきたりします。 -
ミスのリスク
人が手作業で数字を入力すれば、必ずミスは起こります。入力ミス、転記ミス、確認漏れ。これらのミスは、後で修正するのにさらに時間と手間がかかり、最悪の場合、会社の信用問題に発展することもあります。 -
機会損失
本来、経理が持つべき役割は、会社の経営状況を正確に把握し、経営層にタイムリーな情報を提供することです。しかし、日々手作業に追われていると、分析や改善といった付加価値の高い業務に手が回らなくなり、ビジネスチャンスを逃すことにもつながります。 -
担当者のストレス
繰り返される単純作業は、担当者のモチベーションを低下させ、燃え尽き症候群(バーンアウト)の原因にもなります。
「手作業だから仕方ない」と放置してきたその業務こそ、会社の成長を阻害する「重石」になっているのです。
業務改善の第一歩は「洗い出し」から
では、この「重石」をどう取り除くのか?
いきなりITツールを導入したり、大規模な組織改革を考えたりする必要はありません。最初の一歩は、「現在の業務をありのままに可視化する」ことです。
そのために有効なのが、業務改善の基本原則である「ECRS(イクルス)」のフレームワークです。これは、以下の4つの視点から業務を分析し、改善点を見つけ出すための思考法です。
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Eliminate(排除): 「その業務は本当に必要か?」
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Combine(統合): 「似た業務をまとめられないか?」
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Rearrange(再配置): 「業務の順序を変えられないか?」
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Simplify(簡素化): 「もっと簡単にできないか?」
これらの問いを、あなたの日常業務一つひとつに当てはめてみましょう。
1. Eliminate(排除):その業務、本当に必要ですか?
手作業の多くは「これまでそうしてきたから」という理由で続けられている場合があります。まずは、あなたの担当業務を全て書き出してみてください。
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「この業務は誰のためにやっているのか?」
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「この業務を止めたらどうなるか?」
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「実は誰も見ていない、誰も使っていない資料ではないか?」
例えば、「毎月、部署ごとに経費集計表をExcelで作成してメールで送付する」という業務。実は、誰もその集計表を見ていない、あるいは会計ソフトから直接データを取り出せるのであれば、この業務自体を「排除」することができます。
2. Combine(統合):似た業務をまとめて効率アップ!
複数の部署や担当者が、似たような情報を別々に作成したり、入力したりしていることはありませんか?
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「同じ情報を複数の資料に転記していないか?」
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「複数人で行っている業務を一人に集約できないか?」
例えば、部門別経費の集計と、プロジェクト別経費の集計を別々に行っている場合、これらを一つの業務に「統合」することで、二度手間を省くことができます。
3. Rearrange(再配置):業務の順序を変えてみよう
業務の順序を変えるだけで、作業効率が劇的に改善されることがあります。
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「この業務は、このタイミングでやるのが本当にベストか?」
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「後工程に必要な情報が、もっと早い段階で入手できないか?」
例えば、経費精算書の承認フロー。紙の書類を回覧するのではなく、スマートフォンで領収書を撮影・アップロードし、上司がその場で承認する仕組みに変えることで、経費精算にかかる時間を大幅に短縮できます。これは、業務の順序を物理的なものからデジタル的なものへと「再配置」する例です。
4. Simplify(簡素化):もっと簡単にできないか?
最後のステップは、残った業務をいかに「シンプル」にするかです。
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「手作業でのデータ入力は、自動化できないか?」
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「目視での確認作業は、システムに任せられないか?」
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「複雑なExcel関数は、もっとシンプルな式にできないか?」
例えば、銀行の入出金明細を手作業で入力している場合、銀行口座と会計ソフトを連携させることで、明細の自動取り込みや仕訳の自動作成が可能になります。これは、手作業を「簡素化」する、まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩です。
可視化は「次の一手」を考えるための羅針盤
ECRSのフレームワークを使って業務を洗い出すと、驚くほど多くの「手作業」が浮かび上がってくるはずです。しかし、大切なのはそこから先です。
洗い出された業務一つひとつに、先ほどの4つの視点を当てはめて、改善策を検討していく。そして、その改善策が、「手作業を減らす」ことに繋がるのです。
たとえば、手作業での経費精算は、外部の経費精算システムにアウトソーシングしたり、OCR(光学文字認識)機能を搭載した会計ソフトを導入してDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めたりするきっかけになります。
経理業務の可視化は、これらの「次の一手」を考えるための羅針盤です。
まとめ:あなたの経理業務はもっと輝ける
あなたの業務は、本当に「手作業」のまま続けるしかないのでしょうか?
「毎日同じことの繰り返しでつまらない」「もっと付加価値の高い仕事がしたい」と感じているなら、それはあなたの潜在能力が、単純作業によって抑えつけられているサインかもしれません。
今回の記事をきっかけに、ぜひご自身の業務を客観的に見つめ直し、ECRSのフレームワークを使って改善の糸口を探してみてください。小さな一歩が、コスト削減、担当者の負担軽減、そして何よりも、あなたの業務をよりクリエイティブで、やりがいのあるものに変える第一歩になるはずです。
「また月末か…」ではなく、「今月も効率よく終わらせよう!」と思えるような、そんな新しい経理の働き方を、今から始めてみませんか?