新規事業の資金調達:補助金・助成金の賢い探し方

新規事業を立ち上げる際、多くの経営者が直面する共通の壁が「資金調達」です。

銀行融資は担保や実績が必要であり、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資は株式の希薄化リスクを伴います。特に、実績が少ない立ち上げ初期や、体力に不安のある中小企業にとって、資金調達は事業の成否を分ける生命線となります。

そこで、真っ先に検討すべきなのが、「補助金・助成金」という公的支援制度です。

これらは原則として返済が不要であり、新規事業の初期投資や人件費などのリスクを劇的に軽減してくれます。しかし、「補助金」や「助成金」と検索すると、その種類の多さ、情報の複雑さ、そして申請手続きの煩雑さに、多くの担当者が圧倒されてしまいます。

「どの制度が自社に最適なのか?」 「膨大な情報の中から、どう効率的に探せばいいのか?」

このコラムでは、補助金・助成金の「賢い探し方と選び方」を徹底解説します。国の主要な制度から地方自治体のユニークな支援策までを体系的に整理し、あなたの新規事業に最適な「公的支援」という名の追い風を受けるための具体的な戦略を学びましょう。

補助金と助成金:混同しやすい2つの制度の違い

まず、公的支援制度の基本となる「補助金」と「助成金」の違いを理解することで、最適な制度を見つけるための第一歩となります。

制度 目的 採択難易度 特徴 所管官庁(主な例)
補助金 政策目標の実現(イノベーション、設備投資など) 高い(競争あり) 審査があり、公募期間が短く、採択件数が限定される。主に経済産業省が所管。 経済産業省(中小企業庁)
助成金 雇用維持、労働環境改善、人材育成 低い(要件を満たせば原則採択) 審査より要件が重視される。公募期間が長い傾向。主に厚生労働省が所管。 厚生労働省

 

中小企業の新規事業にとって、設備投資や新製品開発の資金となるのは、主に「補助金」です。一方、新規事業に伴う人材採用や教育の費用を賄うのは「助成金」という棲み分けがあります。

ステップ1:国の主要な補助金・助成金を攻略する

国が提供する制度は規模が大きく、新規事業の柱となり得る資金源です。特に重要な4つの制度を攻略しましょう。

1. 経済産業省系:イノベーションを後押しする「補助金」
制度名 目的と特徴 新規事業での活用例
事業再構築補助金 新分野展開、事業転換など、企業の思い切った事業の再構築を支援。補助額が大きい 既存事業とは異なる、AIを活用した新サービスのための大規模な設備・システム投資。
ものづくり補助金 革新的な製品・サービス開発のための設備投資やシステム構築を支援。生産性向上がキーワード。 新規開発する製品のための高性能な製造機械の導入、またはIoTシステムの構築
IT導入補助金 ITツール(クラウドソフト、セキュリティサービスなど)の導入費用の一部を補助。 新規事業立ち上げに必要なSaaSツール(顧客管理、会計、コミュニケーション)の初期導入。
小規模事業者持続化補助金 小規模事業者の販路開拓、生産性向上のための費用を支援。汎用性が高い 新規事業のプロモーション費用(Webサイト制作、チラシ、展示会出展)の捻出。

 

2. 厚生労働省系:人材と組織を支援する「助成金」
制度名 目的と特徴 新規事業での活用例
キャリアアップ助成金 非正規雇用労働者を正規雇用に転換したり、処遇改善を図る事業主を支援。 新規事業の立ち上げメンバーとして非正規雇用者を雇用し、正規雇用へ転換する際のインセンティブ。
人材開発支援助成金 従業員に職務に関連する専門的な知識・技能を習得させるための訓練費用を支援。 新規事業に必要なAIやデジタルマーケティングのスキルを習得させるための、外部研修費用。

ステップ2:自社に最適な公的支援を「効率的に」探す方法

制度の数は多すぎるため、闇雲に探すのは時間の無駄です。以下のステップで、最適な制度を絞り込みましょう。

1. 「目的」と「使途」から逆算する(最も重要)

補助金は「何に使うか(使途)」と「それによって何を実現したいか(目的)」が明確でないと、絶対に採択されません。まず、あなたの新規事業の最も資金が必要な部分を特定します。

資金の使途 主な目的 探すべき制度の方向性
高額な設備・システム 新しい製品やサービスの開発・製造 「事業再構築」「ものづくり」系(経産省)
人件費・採用費 新規雇用、正規雇用への転換 「キャリアアップ」「雇用促進」系(厚労省)
マーケティング・広報 販路拡大、Webサイト制作 「持続化」系(経産省)、または自治体の販路支援
専門的な研修費用 従業員のリスキリング(学び直し) 「人材開発支援」系(厚労省)

 

2. 「自治体・業界団体」の情報を必ずチェックする

国の補助金に比べて金額は小さいものの、採択率が高く、地域や業界に特化したユニークな制度が多く存在します。

  • 地域特化

  • 各都道府県や市区町村は、その地域の課題(例:観光誘致、地域産業のDX推進、Uターン起業)に合わせた独自の補助金を設けています。「〇〇県+新規事業+補助金」で検索し、自社の所在地や事業展開予定地の情報を確認しましょう。

  • 業界特化
    業界団体(例:建設業協会、IT協会など)が、業界のデジタル化や人材育成のための助成金制度を独自に設けている場合があります。

3. 公的な情報ポータルサイトを使いこなす

膨大な情報を体系的に整理し、無料で提供している公的サイトを活用しましょう。

  • ミラサポplus(中小企業向け補助金・総合情報サイト)
    中小企業庁が運営。補助金・助成金の情報だけでなく、経営課題の相談窓口(よろず支援拠点)の情報も得られます。

  • J-Net21(中小企業ビジネス支援サイト)
    補助金・助成金の検索機能が充実しており、目的や地域、対象者などで絞り込みやすいです。

  • 厚生労働省の各種情報
    厚労省の助成金は、各都道府県の労働局が窓口となることが多いため、労働局の公式サイトもチェックが必要です。

ステップ3:補助金・助成金を選ぶ際の3つの重要ポイント

最適な制度を見つけたら、採択を勝ち取るための「戦略的な選び方」が重要になります。

ポイント1:資金は「後払い」が原則であることを理解する

多くの補助金は、「事業期間中に費用を立て替え、事業完了後に実績報告をしてから支給される」という「後払い」が原則です。

  • 対策
    資金繰りに余裕がない場合、つなぎ融資(資金が支給されるまでの借入)の準備が必要となります。公募要領に記載されている「概算払い(一部を前払い)」の有無を確認しましょう。

  • 重要性
    事業計画を立てる際、資金が手元に入ってくるまでの期間を考慮に入れなければ、資金ショートのリスクがあります。

ポイント2:採択は「事業計画書」の出来で決まる

補助金は、国の「政策目的」にどれだけ貢献できるかが採択の鍵となります。単に「お金が欲しい」という動機では通りません。

  • 審査の視点
    審査員は、「この事業に公的資金を投じることで、どれだけの経済波及効果(雇用創出、生産性向上、地域活性化)が生まれるか」を見ています。

  • 戦略
    申請書では、「自社の事業が、その補助金の目的(例:事業再構築による新市場創出)にどう貢献し、どれだけの効果(数字)を生むか」を明確かつ具体的に記述する必要があります。抽象的な表現は避け、「売上成長率」「新規雇用者数」などの客観的な数字で説得力を高めましょう。

ポイント3:専門家(士業)との連携を検討する

補助金の公募要領の読解、事業計画書の作成、そして採択後の実績報告は、非常に煩雑で専門知識を要します。

  • 中小企業診断士
    補助金制度に精通し、事業計画書作成の指導や、申請のサポートを行ってくれます。

  • 社会保険労務士
    助成金(厚労省系)の申請代行の専門家です。複雑な労働関連法規の要件チェックを代行してくれます。

  • 活用方法
    多くの専門家は、「着手金+成功報酬(採択された場合にのみ発生)」という料金体系を取っています。専門家への報酬を支払っても、採択率の向上と本業に集中できる時間を考えれば、費用対効果は高いと言えます。

最後に:公的支援は「挑戦への後押し」である

補助金や助成金は、新規事業のアイデアや技術を、「実現可能な事業」へと変貌させる強力な推進力です。資金の不安から、挑戦を諦める必要はありません。

公的支援制度は、まさに「企業の挑戦を応援する」ために存在しています。

今日解説したステップで、あなたの新規事業の目的と使途を明確にし、最もフィットする制度を見つけ出してください。そして、公的支援という名の追い風を最大限に活かし、あなたの事業を成功へと導くことを願っています。

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