ジョブローテーションが新規事業に与える影響と解決策

終身雇用と年功序列という日本型雇用の根幹をなしてきたジョブローテーション。社員一人ひとりが幅広い経験を積み、ゼネラリストとして成長する上で、この制度は大きな役割を果たしてきました。しかし、新しい時代に突入し、特に新規事業の立ち上げにおいては、この「当たり前」の制度が、思わぬ壁となることがあります。

「せっかく事業が軌道に乗り始めたのに、担当者が異動してしまった」 「前の担当者が何をやっていたか分からず、また一からやり直しだ」

もしあなたがそう感じているなら、それは決して珍しいことではありません。長年の歴史を持つ大企業ほど、ジョブローテーションのデメリットが新規事業に与える影響は深刻です。

このコラムでは、大企業のジョブローテーションが新規事業に与える影響を深掘りし、そのデメリットを克服するための具体的な解決策を提示します。短期異動の壁を乗り越え、ノウハウを蓄積する組織づくりのヒントを得て、あなたの新規事業を成功へと導きましょう。

根深い課題:ジョブローテーションの3つのデメリット

ジョブローテーションは、社員のスキルアップや不正防止といったメリットがある一方で、新規事業にとっては致命的なデメリットを伴います。

1. ノウハウの蓄積が阻害される

新規事業の立ち上げは、不確実性の高い荒野を切り拓くようなものです。成功への道筋は誰も知りません。だからこそ、日々の小さな失敗から学び、顧客のフィードバックを基に、仮説検証のサイクルを高速で回す必要があります。

しかし、3年程度の短期間で担当者が異動してしまうと、その「学習の軌跡」が組織内に残りません。
前の担当者が、どのような仮説を立て、どのような検証を行い、どのような結論に至ったのか。その貴重なノウハウは、引き継がれることなく失われてしまいます。

結果として、新しい担当者は同じ失敗を繰り返し、事業はいつまで経っても前進できなくなります。

2. 人間関係の再構築に時間を要する

新規事業は、社内の多くの部門や、社外のパートナーとの連携が不可欠です。しかし、ジョブローテーションによって担当者が変わるたびに、これらの人間関係をゼロから再構築しなければなりません。

  • 社内
    既存事業部門の担当者、法務や経理など管理部門の担当者との信頼関係を築くのに時間がかかる。

  • 社外
    外部パートナーや顧客との関係性もリセットされ、事業の継続性が損なわれる。

特に、事業の初期段階で築かれた、顧客との個人的な信頼関係は、次の担当者に引き継ぐことが非常に難しく、事業の成長を鈍化させる原因となります。

3. 担当者のモチベーション低下

「どうせ数年で異動するし、そこまで頑張っても意味がない」

担当者がそう感じてしまうと、事業へのコミットメントは低下します。新規事業は、短期間で結果が出るものではなく、数年単位の長期的な視点と情熱が必要です。しかし、自身のキャリアと事業の成功が結びつかないと感じると、担当者はリスクを避けるようになり、大胆な挑戦ができなくなってしまいます。

ジョブローテーションの壁を乗り越えるための3つの解決策

では、この根深い課題をどのように解決すれば良いのでしょうか?以下の3つのアプローチが有効です。

1. 外部人材の活用と人事評価制度の見直し
(1) 専門職制度の導入

ジョブローテーションの弊害を克服する最も直接的な解決策は、新規事業に特化した専門職制度を導入することです。これにより、新規事業担当者が長期間、一つのプロジェクトに専念できる環境を整えます。

  • メリット
    ノウハウが組織内に蓄積され、事業の継続性が担保されます。担当者も長期的な視点で事業に取り組むことができ、高いモチベーションを維持できます。

(2) 外部人材(プロフェッショナル)の活用

社内に専門的なノウハウを持つ人材がいない場合は、外部人材を積極的に活用しましょう。新規事業の立ち上げ経験が豊富なコンサルタントや、スタートアップ出身のプロフェッショナルをプロジェクトマネージャーやアドバイザーとして迎え入れることで、組織内に新たな知見をもたらすことができます。

(3) 人事評価制度の見直し

「失敗は挑戦の証」と見なす人事評価制度を導入します。短期的な売上や利益だけでなく、以下の項目を評価に加えることで、担当者は安心してリスクを取れるようになります。

  • プロセス評価
    顧客インタビューの回数、仮説検証のサイクル数など。

  • 学習評価
    失敗から何を学び、どのように次の行動に活かしたか。

2. ドキュメント化と組織的なノウハウ共有

どんなに優秀な担当者がいても、異動は避けられないかもしれません。その場合でも、事業のノウハウを「個人」ではなく「組織」に蓄積する仕組みを構築することが重要です。

(1) 事業ノウハウのドキュメント化

事業の立ち上げ過程で得られた学びを、事業計画書、市場調査レポート、顧客インタビューの議事録として丁寧にドキュメント化します。これにより、後任者がゼロから始めることなく、過去の知見を活かすことができます。

(2) 「学習の共有会」の実施

定期的に「新規事業の失敗から学ぶ会」のような共有会を開催しましょう。担当者が自身の失敗談やそこから得られた教訓をオープンに語り合うことで、ノウハウが組織全体で共有されます。これは、組織の風土を「減点主義」から「加点主義」に変える上でも非常に有効です。

3. チーム体制の見直しと「事業共創」
(1) チーム体制の多様化

新規事業のチームを、以下のような多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成します。

  • 事業開発のプロ
    リーンスタートアップやアジャイル開発に精通したメンバー。

  • 技術の専門家
    新規事業の核となる技術に詳しいエンジニア。

  • 現場の知見者
    既存事業の課題や顧客ニーズを深く理解しているメンバー。

異なる専門性を持つメンバーが協業することで、事業の多角的な視点が得られ、仮に担当者が異動しても、チーム全体で事業のノウハウを共有しやすくなります。

(2) オープンイノベーションの活用

自社だけで新規事業を進めるのではなく、スタートアップや大学、他社との事業共創に積極的に取り組みます。特に、アクセラレータープログラムなどを活用することで、外部のスピード感やノウハウを吸収し、自社の事業開発を加速させることができます。これは、ジョブローテーションの弊害を外部の力で補う有効な手段です。

最後に:組織文化を変える勇気

ジョブローテーションは、一朝一夕に変えられるものではありません。それは、長年にわたって築かれてきた組織文化や人事制度そのものです。

しかし、このままでは、新しい時代に立ち向かう新規事業の芽を、自らの手で摘んでしまうことになりかねません。

重要なのは、制度の「なぜ、この制度が必要なのか?」という本質的な問いを、社内で議論し、新規事業の成長を阻害する要因を一つひとつ取り除くことです。

この記事が、あなたの会社の新規事業を成功に導き、組織文化を変革する一歩となることを願っています。

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