経理部門の属人化を防ぐマニュアル作成のポイント

「この数字、どうやって計算するんだっけ?」

「あの請求書、誰に確認してもらえばいいんだ?」

もし、あなたの部署で誰かがそう尋ね、それに答えられるのがたった一人しかいないとしたら、それは「属人化」のサインです。

経理部門の業務は、会社の信用を左右する重要なものです。しかし、その業務フローが特定の担当者の頭の中にしか存在しないとしたら、それは会社にとって、限爆弾を抱えているようなものだと言えるでしょう。

属人化が引き起こす3つの「致命的な」リスク

業務の属人化は、一見すると「ベテランのノウハウ」として美化されがちですが、その裏には、組織の競争力を削ぎ、経営を揺るがしかねない大きなリスクが隠されています。

1. 業務停止のリスク

特定の担当者しかできない業務がある場合、その担当者が突然休職したり、退職したりすると、業務は文字通り「ストップ」します。月末の支払いや決算業務が滞れば、会社の資金繰りに影響が出たり、取引先の信用を失ったりする事態にもなりかねません。特に、経理業務は止めることが許されないため、属人化は最大の弱点となります。

2. 不正リスクの温床

業務が特定の担当者に集中し、他の人の目が届かない状態になると、意図的な不正や横領を見つけ出すことが非常に困難になります。適切なチェック体制が機能しないため、不正の温床となりやすいのです。これは、企業のコンプライアンスに関わる重大なリスクです。

3. 継続的な改善が困難に

業務がブラックボックス化していると、どこに無駄があるのか、どうすれば効率化できるのかを誰も把握できません。結果として、非効率な手作業が温存され、担当者の負担は増え続ける一方です。新しいシステムを導入しようにも、業務フローが複雑すぎて、誰も手をつけられない、といった状況に陥りがちです。

これらのリスクを解消し、経理部門をより強く、しなやかな組織へと変えるための最も有効な手段が、「業務マニュアルの作成」です。

良いマニュアルの5つの条件:誰でもわかる「教科書」を作る

「マニュアルは作ったけど、誰も見てくれない…」

「結局、口頭で教えた方が早い…」

そうならないためには、「本当に使えるマニュアル」を作る必要があります。良いマニュアルには、以下の5つの条件が欠かせません。

1. 誰が読んでも理解できること

専門用語を避け、誰でもわかる言葉で書くことが最も重要です。例えば、「仕訳」と書く代わりに「取引を帳簿に記録すること」と補足したり、社内特有のルールは具体的に説明したりしましょう。また、文字だけでなく、スクリーンショットや図、フローチャートなどを活用することで、視覚的に理解しやすくなります。

2. 手順が具体的に書かれていること

「あの書類を用意して、このシステムに入力する」といった曖昧な表現ではなく、「○○フォルダのAというファイルを開き、セルB5に数字を入力する」といったように、具体的な操作手順をステップ形式で書きましょう。この「具体性」こそが、迷いをなくし、スムーズな業務遂行を可能にします。

3. 最新情報に常に更新されていること

マニュアルは一度作って終わりではありません。法改正、システムのアップデート、業務フローの変更など、変更があればその都度更新することが不可欠です。古くなった情報は、かえって混乱を招き、マニュアルの信頼性を失わせます。

4. 閲覧しやすい場所にあること

どんなに良いマニュアルでも、どこにあるかわからなければ意味がありません。社内の共有フォルダ、クラウドストレージ、ナレッジ共有ツールなど、誰もが簡単にアクセスできる場所に保存し、周知徹底しましょう。

5. なぜその業務が必要か書かれていること

単に手順だけを書くのではなく、「この業務を行うことで、正確な月次決算が可能になり、経営層が正しい判断を下せる」といったように、業務の目的や意義を記載することで、担当者はより主体的に業務に取り組むことができます。

マニュアル作成を成功させるための具体的なステップ

「いきなりマニュアルを作れと言われても…」

そう思うかもしれません。しかし、大々的なプロジェクトを組む必要はありません。まずは以下のステップで、スモールスタートを切ってみましょう。

Step 1: 業務の棚卸しと「見える化」

まずは、経理業務をすべて書き出します。担当者一人ひとりが、「毎日、毎週、毎月、何をしているか」をリストアップしましょう。

次に、そのリストを元に、業務の流れをフローチャートにしてみましょう。ExcelやGoogleスプレッドシートでも十分です。業務の開始点から終了点まで、どのような書類が流れ、誰が何をして、どこに情報が移動するのかを「見える化」することで、無駄なプロセスや属人化している部分が浮き彫りになります。

Step 2: 重要な業務からマニュアル化

洗い出された業務の中から、「特に属人化のリスクが高い業務」「ミスの発生率が高い業務」を優先してマニュアル化します。例えば、

  • 支払業務: 銀行振込の手順、承認フロー

  • 経費精算: 申請から支払いまでの流れ、領収書の確認方法

  • 月次決算: 集計方法、チェックリスト

といった業務から着手すると良いでしょう。

Step 3: クラウドツールを活用して効率的に作成・共有

マニュアル作成と更新を効率化するためには、以下のツールが役立ちます。

  • Googleドキュメント / Microsoft Word(オンライン版)
    共同編集機能を使えば、複数の担当者が同時にマニュアルを更新できます。

  • Confluence / esa
    企業向けのナレッジ共有ツールで、マニュアルだけでなく、Q&Aや議事録なども一元管理できます。

  • 図解作成ツール(Miroなど)
    フローチャートや図を直感的に作成でき、業務の全体像を視覚的に表現するのに役立ちます。

ポイント: マニュアルは、一人で完璧なものを作ろうとせず、「まずたたき台を作成し、チームで育てる」という意識が重要です。実際に業務を行うメンバーからのフィードバックを取り入れ、常に改善を重ねていきましょう。

まとめ:マニュアルは「手間」ではなく「組織の財産」

業務マニュアルの作成は、一時的に時間と労力がかかるように感じるかもしれません。しかし、それは決して「手間」ではなく、「会社の未来に向けた重要な投資」です。

業務の属人化を防ぎ、品質を安定させ、新しい人材の早期育成を可能にする。そして何より、経理担当者自身が「自分しかできない」というプレッシャーから解放され、よりクリエイティブな仕事に集中できる環境を整えることができます。

マニュアルは、一度作ったら終わりではありません。それは、業務改善のサイクルを回すための「羅針盤」であり、会社のノウハウが詰まった「組織の財産」です。

ぜひ、今日から、あなたの会社の「財産」を築き始める第一歩を踏み出してみてください。

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