経理部門のヒューマンエラーをなくす方法

「しまった!」

電卓を叩き、会計ソフトに数字を入力し、よし、これで完璧!…と思った矢先。最後の最後に、数字が合わないことに気づく。

その瞬間、頭が真っ白になります。どこで間違えたのか、一つひとつさかのぼって確認する。たった一つの数字の入力ミスが、膨大な時間を奪っていく。

経理担当者の方なら、誰もが経験したことのある「ヒューマンエラー」です。

ヒューマンエラーは、決してあなたの不注意や能力不足が原因ではありません。それは、「エラーが起こりやすい環境」「エラーを防ぐ仕組みがないこと」が引き起こす、必然的な結果なのです。

今回は、経理業務におけるヒューマンエラーの根本原因を特定し、それを未然に防ぐための多角的な対策について、具体的に解説します。

なぜ、経理でヒューマンエラーは起こるのか?

経理業務は、数字を正確に扱うことが求められる、非常に神経を使う仕事です。しかし、だからこそ、ヒューマンエラーが発生しやすい環境にあります。

1. 繰り返しによる作業疲労

毎日、同じような数字を同じような場所に手入力する。この繰り返し作業は、脳の疲労を招き、集中力を低下させます。特に、決算期や月末などの繁忙期には、業務量が増えることで、ミスの発生率も高まります。

2. 「転記」と「転送」の罠

ある書類の数字を別の書類に手で書き写す「転記」。あるいは、Excelの数字を別のExcelシートにコピー&ペーストする「転送」。これらの作業は、ヒューマンエラーの温床です。たった一つの数字を見間違えたり、コピペミスをしたりするだけで、後々の修正に膨大な時間がかかります。

3. チェック体制の不備

「自分がやるしかない」
「もう一度、自分で確認すれば大丈夫」

経理部門が少人数である中小企業では、一人の担当者が業務の最初から最後までを担う「職務分掌」が不十分な場合があります。これにより、本来、別の担当者が行うべきチェックが機能せず、ミスが見過ごされやすくなります。

ヒューマンエラーをなくすための多角的なアプローチ

ヒューマンエラーをなくすためには、一つの対策だけでは不十分です。以下の3つのアプローチを組み合わせることで、「人がミスをしない環境」を構築することができます。

アプローチ1:人によるチェック体制の強化

「人が関わる限り、ミスは必ず起こる」という前提に立ち、それを発見できる仕組みを構築します。

1. ダブルチェック・トリプルチェックの導入

最も基本的な対策です。入力者とは別の担当者が、入力内容を必ず確認する「ダブルチェック」の仕組みを導入しましょう。可能であれば、さらに別の担当者が承認を行う「トリプルチェック」も有効です。

  • チェックリストの作成
    チェックする担当者が何を、どう確認すればよいか明確なチェックリストを作成しましょう。チェック項目を「日付」「金額」「勘定科目」のように細かく分解することで、確認漏れを防ぎます。

  • 職務分掌の徹底
    支払業務など、特にリスクの高い業務については、「入力者」「承認者」を明確に分けることで、不正やミスのリスクを大幅に減らすことができます。

2. 定期的なレビューとフィードバック

チーム全体で、過去に発生したミスやヒューマンエラーについて、定期的に振り返る時間を取りましょう。

  • 事例共有
    「なぜそのミスが起きたのか?」「どうすれば防げたのか?」を議論することで、チーム全体の再発防止意識が高まります。

  • ナレッジの蓄積
    よくあるミスや、その対策方法をマニュアルや共有ドキュメントに蓄積していくことで、同じミスを繰り返すことを防げます。

アプローチ2:業務プロセスの簡素化と自動化

ヒューマンエラーの温床となる「手作業」自体をなくす、最も根本的な解決策です。

1. データの手入力をなくす
  • 会計ソフトとの連携
    銀行口座やクレジットカード、電子マネーを会計ソフトと連携させ、入出金明細を自動で取り込む仕組みを構築しましょう。これにより、手入力による転記ミスをゼロにできます。

  • RPAの導入
    定期的に発生する複数のExcelシート間のデータ転記など、決まった手順で進む単純作業をロボットに任せます

  • OCRの活用
    請求書や領収書をスキャンするだけで、必要な情報を自動でデータ化するOCR(光学文字認識)機能を活用しましょう。

2. 業務プロセスの見直し

そもそも、その業務は本当に必要でしょうか?

  • 書類のペーパーレス化
    経費精算や請求書管理をクラウドシステムに移行することで、紙の書類の受け渡しや保管といった無駄なプロセスをなくせます。

  • ワークフローの統一
    部門ごとにバラバラだった経費精算のルールを統一したり、請求書のフォーマットを一本化したりすることで、担当者が迷うことなく業務を進められるようになります。

アプローチ3:信頼を築くための「可視化」

「なぜミスが起きたのかわからない」「誰が何をしているのかわからない」といった状況は、不信感を生み、チームのパフォーマンスを低下させます。

1. 業務フローの「見える化」

誰が、いつ、何を、なぜ行っているのか、業務フロー全体を図やリストで可視化しましょう。これにより、ミスが発生した際に、どのプロセスに問題があったのかをすぐに特定できます。

2. 権限と役割の明確化

誰がどの業務の責任者なのか、誰が最終承認権限を持っているのかを明確にしましょう。これにより、責任の所在がはっきりし、「誰かがやってくれるだろう」といった無責任な行動を防げます。

まとめ:ミスをなくすことは、コスト削減と信頼性の向上に繋がる

ヒューマンエラーを減らすことは、単に「ミスがなくなる」こと以上の大きなメリットをもたらします。

  • コスト削減
    ミスの修正にかかる残業代、再発行にかかる郵送費、印刷代など、見えないコストが削減されます

  • 時間の創出
    単純な手作業やミスの修正に費やしていた時間が削減され、より付加価値の高い業務(経営分析、コスト削減提案など)に集中できます。

  • 信頼性の向上
    正確な決算書、期日通りの支払いなど、経理業務の信頼性が高まることで、社内外からの信用が向上します

ヒューマンエラーをなくすことは、経理部門が「コストセンター」から「企業の成長を支えるパートナー」へと進化するための第一歩です。

完璧を目指す必要はありません。まずは、あなたの部署で最も頻繁に発生するミスを一つ特定し、それをなくすための小さな一歩から始めてみてください。

「しまった!」と焦る日が、きっと減っていくはずです。

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