【入門】経理の業務フロー改善

5つの成功事例から学ぶ

あなたの会社の経理部門は、今、どこに課題を抱えていますか？

残業が減らない月末、特定の社員にしかできない業務、そしていつまでも紙から離れられないプロセス。これらの課題は、決してあなたの会社特有のものではありません。多くの企業が、同じような壁にぶつかりながらも、業務フローを改善し、劇的な効率化を実現しています。

他社の成功事例から学ぶことは、あなたの会社が抱える課題を解決するための最短ルートです。彼らがどのように壁を乗り越え、いかにして「楽な経理」を実現したのか。その具体的なヒントを探りましょう。

成功事例の背景にある共通の課題

華々しい成功事例の裏には、多くの企業が抱える共通の課題がありました。

• 非効率な手作業の蔓延
  特に紙の請求書や領収書からのデータ入力、Excelシート間の転記作業など、「手作業だから仕方ない」と放置されてきた単純作業が、全体の処理速度を遅らせていました。

• 業務の「属人化」
  複雑な月次決算や、特定の取引先への特別な対応方法が、ベテラン社員の頭の中だけにあり、誰もその手順を知らない「ブラックボックス」状態でした。

• 部署間の連携不足
  経費精算や請求書発行の依頼が、バラバラのフォーマットでバラバラのタイミングで提出され、経理部門が確認と修正作業に追われる状態でした。

これらの課題を乗り越えるために、企業は決して大規模な投資だけをしたわけではありません。重要なのは、「どこに課題があるかを見抜き、最適なツールと仕組みを組み合わせた」ことです。

劇的に変わった！経理業務フロー改善の5つの成功事例

ここでは、アプローチの異なる5つの成功事例を紹介します。あなたの会社の課題に最も近い事例を見つけ、応用できるヒントを探してみてください。

事例1：【RPA導入】請求書データ入力業務を90%削減した製造業A社

課題

毎月、数千件に及ぶ仕入先の請求書を目視で確認し、会計システムに手入力していました。この作業だけで、担当者2名が毎月50時間を費やし、入力ミスも多発していました。

解決策

RPA（Robotic Process Automation）とOCR（光学文字認識）を連携させました。

1. スキャナーで読み込んだ請求書の文字情報をOCRでデータ化。

2. RPAがそのデータを自動でチェックし、会計システムへの入力までを代行。

成功のポイント

RPAの適用範囲を、複雑な業務ではなく「大量に発生する単純な反復作業」に絞り込んだこと。これにより、導入効果が明確になり、担当者は入力ミスに怯えることなく、残りの10%の複雑な案件や分析業務に集中できるようになりました。

事例2：【クラウド化】承認フローの停滞を解消し、月次決算を5営業日短縮したIT企業B社

課題

経費精算や支払い稟議の承認が、紙の書類と印鑑に依存していました。出張や外出が多い役員の承認待ちで、平均3〜5日の待ち時間が発生し、月次決算の報告が常に遅れていました。

解決策

クラウド型の経費精算システムと電子承認ワークフローを導入。

1. 従業員はスマートフォンで領収書を撮影し、システム上で申請を完結。

2. 上司や役員は、場所を選ばずシステム上で内容を確認し、ワンクリックで承認。

成功のポイント

承認待ちの「待ち時間」というボトルネックをITで排除したこと。これにより、書類が物理的に動く時間がなくなり、月次決算に必要なデータがリアルタイムで経理部門に集まるようになりました。

事例3：【アウトソーシング】属人化していた給与計算業務を外部化し、労務リスクをゼロにしたサービス業C社

課題

給与計算は、税法や社会保険料率の改正に常に注意が必要な業務ですが、担当者が一人しかおらず、属人化していました。その担当者の退職が決定した際、引き継ぎの難しさから、業務停止のリスクが浮上しました。

解決策

給与計算と年末調整業務のすべてを、外部の専門業者にアウトソーシング。

成功のポイント

自社の競争力に直結しない「定型業務」を切り離し、外部のプロに任せたこと。これにより、担当者の退職リスクを完全に解消し、法改正への対応漏れというコンプライアンスリスクも回避できました。経理担当者は、より本質的な経営分析の業務に時間を割けるようになりました。

事例4：【標準化】業務マニュアルを全社員に公開し、問い合わせ対応を半減させた小売業D社

課題

経理部門の日常業務の約30%が、他部署からの「経費精算の仕方は？」「〇〇の仕訳はどうなる？」といった問い合わせ対応に費やされていました。担当者によって回答にばらつきがあり、非効率でした。

解決策

ナレッジ共有ツールを導入し、業務マニュアルとFAQを整備。

1. 経理担当者全員で、よくある質問と回答を「ナレッジ記事」として作成。

2. これらの記事を全社員がいつでも検索できる社内FAQシステムとして公開。

成功のポイント

経理業務のルールを「経理部門だけのもの」にせず、全社に公開したこと。これにより、多くの疑問が自己解決できるようになり、経理担当者は「教える」時間から解放され、同時に業務ルールの浸透にも繋がりました。

事例5：【プロセス統合】システム間連携で二重入力をなくし、工数を20%削減した商社E社

課題

売上の計上時に、営業部門は販売管理システムに、経理部門は会計システムに、それぞれ同じデータを手入力していました。二重入力による時間ロスと、データ不一致によるエラーチェックに多大な時間を要していました。

解決策

API連携を用いて、販売管理システムと会計システムの連携を強化。

• 販売管理システムで売上が確定した瞬間に、必要な仕訳データが自動で会計システムに転送される仕組みを構築。

成功のポイント

「二度手間」というボトルネックを物理的に排除したこと。手作業での転記作業がゼロになり、ヒューマンエラーが劇的に減少しました。これは、既存のシステムを活用しつつ、連携機能を追加することで大きな成果を出した好例です。

事例から学ぶ、自社への応用方法

これらの成功事例から見えてくるのは、業務改善の成功は、「ツールを入れること」ではなく、「最適なアプローチで課題を解消すること」にあるということです。

1. 目的を明確化し、「小さな勝利」から始める

「残業をなくす」「ペーパーレス化」といった漠然とした目標ではなく、「〇〇という作業にかかる時間を50%削減する」「承認待ち日数を3日から1日に減らす」といった具体的な目標を立てましょう。そして、最も効果が出やすい「手作業の排除」や「承認フローの改善」など、小さな成功体験から積み上げていくことが重要です。

2. 現場の担当者を「巻き込む」

改善の鍵を握るのは、日々業務を行っている現場の担当者です。システム導入やマニュアル作成の際、必ず現場の意見を聞き、「何が一番手間になっているか」という真の課題を引き出しましょう。成功事例の多くは、現場の負担を軽減することを第一に考えて設計されています。

3. 「ECRS」の視点で常に業務を見直す

すべての改善は、業務改善の基本原則である「ECRS（排除・統合・再配置・簡素化）」の視点で行われています。

• Eliminate（排除）
  事例1, 3, 5のように、手作業や無駄なチェックをなくす。

• Combine（統合）
  事例5のように、システム間のデータ連携で二重入力を統合する。

• Rearrange（再配置）
  事例2のように、承認フローを物理的なものからデジタル的なものへと再配置する。

• Simplify（簡素化）
  事例4のように、ルールをシンプルにして問い合わせを減らす。

これらの事例は、あなたの会社の経理業務も劇的に改善できる可能性を示しています。まずはあなたの部署で最も「非効率だ」と感じる作業を一つ特定し、上記の事例からヒントを得て、改善への一歩を踏み出してみませんか。