経理業務におけるボトルネックを特定し、改善するアプローチ

「この作業が終わらないと、次の作業に進めない…」

月末の締め作業や支払いの承認待ち。経理部門にいると、誰もが一度は感じる、業務が膠着する瞬間です。自分自身は手を動かしているのに、なぜか業務全体が前に進まない。まるで、スムーズに流れるべき水が、途中でせき止められてしまったかのような状態です。

この業務の停滞こそが、まさに「ボトルネック」です。

ボトルネックとは、一連の業務プロセスの中で、最も遅く、最も処理能力が低い部分のこと。あなたの会社の経理業務も、この目に見えないボトルネックによって、残業が増え、業務効率が低下し、経営判断のスピードを鈍らせているかもしれません。

今回は、経理業務のボトルネックを特定し、それを解消するための具体的なアプローチをご紹介します。

ボトルネックの定義と経理業務への悪影響

ボトルネックとは、プロセスの全体効率を決定する「最大の制約」です。

たとえば、工場で製品を作る際、いくら前工程を速くしても、最も時間がかかる一つの工程(ボトルネック)の処理能力以上には、全体のアウトプットは上がりません。経理業務も全く同じです。

経理業務におけるボトルネックの悪影響
  1. 残業の増加と疲弊
    業務の最終段階(例:月次報告書の作成)が特定の入力待ちや承認待ちで遅延すると、その遅れを取り戻すために残業が発生します。担当者は常に焦燥感に追われ、疲弊します。

  2. 経営判断の遅延
    月次決算の報告が遅れるのは、数字の集計や承認がボトルネックになっているためです。経営層はタイムリーな情報を得られず、市場の変化への対応が遅れてしまう可能性があります。

  3. ミスの増加
    ボトルネックによって発生した遅延を取り戻そうと急ぐことで、入力ミスや確認漏れといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。

ボトルネックを特定し、その「口」を広げることが、経理業務の効率化の最重要課題なのです。

経理業務で発生しやすいボトルネックの類型

あなたの会社のボトルネックがどこにあるかを見つけるために、経理業務で頻繁に発生する「つまり」のポイントを3つに類型化してみましょう。

1. 「手作業と入力」のボトルネック

これは、最も古典的で、最も多く見られるボトルネックです。デジタル化されていない情報や非効率な手作業が原因です。

  • 紙からの転記作業: 請求書や領収書を目視で確認し、会計ソフトやExcelに手入力する作業。件数が多いほど、処理速度が遅くなり、ミスも増えます。

  • データの整形作業
    各部署からバラバラのフォーマットで送られてきたExcelデータを、集計するために手作業でコピー&ペースト、または関数で整形する作業。

  • 物理的な作業
    請求書の印刷、三つ折り、封入、郵送といった、IT化されていない物理的な作業。

2. 「承認と連携」のボトルネック

業務が属人化していたり、他部署との連携がスムーズでなかったりすることが原因で起こります。

  • 上司の承認待ち
    経費精算や支払いの承認が、出張中や多忙な上司の手元で停滞している状態。これは、電子承認システムがない場合に頻繁に発生します。

  • 他部署からの情報不足/提出遅延
    営業部門からの売上計上情報や、人事部門からの勤怠データなどが遅れ、経理業務の開始が遅れてしまう状態。

  • 属人化したチェック
    特定のベテラン社員しかできない、複雑なチェック作業が全体の流れを止めている状態。

3. 「システムと機能」のボトルネック

これは、システム自体が古かったり、連携ができていなかったりすることが原因です。

  • システムの連携不足
    営業管理システム(SFA)と会計システムが連携しておらず、二重入力が発生している状態。

  • 古いシステムの操作性
    複雑でわかりにくいインターフェースの古い会計システムを使っているため、入力や修正に時間がかかっている状態。

  • 検索性の低さ
    必要な過去の契約書や仕訳データを見つけるのに時間がかかっている状態(デジタル化されていても、タグ付けや命名規則が不十分な場合に起こります)。

ボトルネック解消のための具体的なアプローチ

ボトルネックの特定には、まず「業務の可視化」(誰が、いつ、何に、どれだけの時間をかけているか)が不可欠です。特定できたら、以下の手順で解消に取り組みましょう。

Step 1: ボトルネックを「排除」する(デジタル化・自動化)

最も効果的なのは、ボトルネックとなっている作業自体を人間が行わないようにすることです。

  • RPA/マクロの活用
    データ転記や整形といった「手作業と入力」のボトルネックは、RPA(Robotic Process Automation)やExcelのマクロを活用して自動化しましょう。人間が介在する部分を極限まで減らすことで、速度と精度が劇的に向上します。

  • クラウドシステムへの移行
    承認フローのボトルネックは、クラウド型の電子承認システムやワークフローシステムを導入することで解消できます。スマートフォンでの承認を可能にし、物理的な場所の制約を取り払いましょう。

  • OCRの導入
    紙の書類からの手入力をなくすために、AI-OCR機能を備えた経費精算システムや請求書管理システムを導入しましょう。

Step 2: ボトルネックを「事前に」解消する(プロセスの見直し)

ボトルネックが他部署との連携や情報不足にある場合は、プロセスの「前倒し」や「統一」で解消します。

  • ルールの統一と徹底
    他部署に対し、経費精算や請求書発行依頼の「締め日」と「必須情報」を明確に伝え、不足がある場合は受け付けないというルールを徹底します。

  • 情報連携の自動化
    営業部門が契約を締結した時点で、その情報が自動で経理部門のシステムに連携されるよう、SFA/CRMと会計システムをAPI連携などで繋ぎましょう。

  • 知識の分散(標準化)
    特定の担当者しかできないチェック作業は、マニュアルを作成し、複数人が担当できるように標準化することで、属人化というボトルネックを解消します。

Step 3: ボトルネックを「監視」し、継続的に改善する

ボトルネックは固定されたものではありません。解消されると、次の最も遅い工程が新たなボトルネックになります。

  • KPIの設定
    各業務プロセスにかかる時間をKPI(重要業績評価指標)として設定し、定期的に計測しましょう。例えば、「請求書の発行にかかる時間:〇時間以内」「月次決算の報告までのリードタイム:〇日以内」などです。

  • ボトルネックを可視化
    タスク管理ツールや業務可視化ツールを活用し、「今、どのタスクで業務が停滞しているか」をリアルタイムで把握できるようにしましょう。

  • チームでのレビュー
    定期的にチームで集まり、「今月のボトルネックはどこだったか?」「その原因は?」を議論し、次の改善策を立案するサイクルを回すことが重要です。

まとめ:ボトルネックの解消は、経理部門の「解放」

経理業務におけるボトルネックは、日々の残業だけでなく、会社の成長スピードを鈍らせる最大の要因です。

ボトルネックを特定し、デジタル化、プロセスの見直し、そして継続的な監視を行うことで、業務の停滞から解放されます。

手作業や承認待ちに費やしていた時間は、会社の未来を分析し、経営層に提言を行うという、より付加価値の高い業務へとシフトします。

あなたの経理業務の「口」を広げ、スムーズな流れを取り戻すこと。それが、経理部門が「会社の制約」から「会社の推進力」へと変わるための、最初にして最大のミッションです。

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