なぜあなたの事業は「売れない」のか?
新規事業マーケティングの落とし穴
「製品は最高のはずなのに、なぜか売れない…」
新規事業に携わるあなたは、このジレンマに直面していませんか?
長時間かけて開発した革新的なサービス。競合にはない独自の技術。自信を持って市場に送り出したはずなのに、なぜか顧客からの反応は鈍い。売上が伸びず、時間だけが過ぎていく。
この時、多くの担当者が「広告費が足りないからだ」「営業が頑張っていないからだ」と、「出口」の施策に原因を求めがちです。しかし、本当にそうでしょうか?
新規事業が「売れない」最大の原因は、製品や広告ではなく、それよりもずっと手前の段階、つまり「顧客解像度の低さ」にあることがほとんどです。
このコラムでは、新規事業マーケティングの致命的な落とし穴を指摘し、売上につながらない原因を特定・改善するための具体的な3ステップを解説します。顧客を深く理解し、あなたの事業を「売れる」状態に変えるためのヒントを得てください。
新規事業が売れない根本原因:「顧客解像度」の低さ
「顧客解像度」とは、ターゲット顧客のニーズ、悩み、購買行動、そして感情を、どれだけ詳細かつ鮮明に理解できているかを示す度合いです。この解像度が低いと、以下のような致命的な落とし穴に陥ります。
落とし穴1:誰も困っていない「自己満足製品」
私たちは、自分のアイデアが「素晴らしい」と思い込むあまり、顧客の真のニーズから目を背けがちです。
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開発者視点: 「この技術を使えば、こんなことができる!」
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顧客視点: 「それができても、特に困らない」
顧客解像度が低いと、「顧客が何を解決したいか」ではなく、「自分たちが何を作りたいか」という自己満足で製品が開発されます。結果、市場に投入されても、「あったら便利」程度の評価しか得られず、「なくても困らない」ため、誰もお金を払ってくれないのです。
落とし穴2:間違った場所での叫び
ターゲット顧客の行動パターンを理解できていないと、マーケティング活動が空振りします。
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顧客解像度が低い場合
「とりあえず若者に流行りのSNSで広告を出そう」 -
結果
ターゲット顧客がそのSNSを見ていないため、広告費だけが無駄になる。
顧客が「どの時間帯に」「どこで」「どのような情報を」探しているかという解像度が低いと、メッセージが届くべき人に届かず、認知すらしてもらえません。
落とし穴3:価格と価値のミスマッチ
顧客解像度が低いと、製品が提供する「価値」と、顧客が「支払える価格」の間にズレが生じます。
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顧客の悩み
解決したい課題の優先度が低い。 -
あなたの設定
開発コストを基準に価格を高めに設定。 -
結果
顧客は「その悩み解決に、そこまでのお金を払う必要はない」と判断し、購入を見送ります。
あなたの製品の価値が、顧客が抱える「痛み(Pain)」の深さと一致していない場合、価格が高いと感じられ、売上には繋がりません。
「売れる」状態を作るための3ステップ
顧客解像度を高め、売れない原因を特定・改善し、「売れる」状態を作るためのプロセスは、以下の3ステップで構成されます。
ステップ1:顧客解像度を高める「仮説検証」
売れない原因は、ほとんどの場合、このステップの不足にあります。製品開発を始める前に、徹底的に顧客を理解しましょう。
1. ペルソナの深掘り
「30代のビジネスマン」という漠然としたターゲット設定では不十分です。顧客をまるで実在する人物のように具体化するペルソナを深掘りします。
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誰?
名前、職業、年収、家族構成 -
何に悩んでいる?
仕事や私生活で最も解決したい「痛み(Pain)」は何か? -
なぜその悩みが深いのか?
その悩みを放置することで、どんな損失(時間、お金、精神)があるのか? -
どう解決しようとしている?
現在、その悩みを解決するために、どんな製品やサービスを使っているか?
2. 定性的なフィードバックの重視
アンケート(定量調査)だけでなく、顧客インタビュー(定性調査)を重視しましょう。
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「なぜ?」を繰り返す
顧客に「なぜ、そう思うのか?」「なぜ、それを選んだのか?」と深く問いかけ、顧客の言葉の裏にある本音(インサイト)を引き出します。 -
解約顧客の声
サービスを解約した顧客に、「なぜ使わなくなったのか?」と聞くことは、製品の致命的な欠陥を見つける上で最も貴重な情報となります。
ステップ2:顧客に合わせた「リード・商談獲得」
顧客解像度が上がったら、次は「売れるメッセージ」を「売れる場所」で届けます。
1. 価値の「翻訳」
顧客の悩みに合わせて、あなたの製品が提供する「価値」を翻訳します。
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技術機能視点
「AIによる高速データ分析が可能です」 -
顧客価値視点
「データ分析にかかる時間を週5時間削減し、残業を減らせます」
顧客は、あなたの技術ではなく、「技術がもたらす便益」にお金を払います。彼らの痛みをどれだけ解決できるかに焦点を当ててメッセージを作りましょう。
2. 適切なチャネルの選定
ペルソナが「どこにいるか」を正確に把握し、その場所で情報を届けます。
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BtoB(法人向け)
業界の専門メディア、展示会、ビジネスSNSなど、情報収集に真剣な場所。 -
BtoC(個人向け)
ライフスタイルに合ったSNS、情報ポータルサイトなど、購買の意思決定につながる場所。
間違った場所で叫ぶのは、砂漠で水を売るようなものです。顧客が「情報を求めている場所」で、適切なメッセージを届けましょう。
ステップ3:データに基づく「分析・改善」
マーケティング活動は、一度やったら終わりではありません。データに基づいて絶えず改善を繰り返すことが不可欠です。
1. 失敗の原因を特定する
売れないとき、どこで顧客が離脱しているのかを特定します。
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認知段階で離脱
広告のクリック率が低い。→メッセージが魅力的ではない。 -
検討段階で離脱
Webサイトは訪問するが、資料請求がない。→製品の価値が伝わっていない。 -
商談段階で離脱
顧客の課題解決になるが、契約に至らない。→価格と価値のバランスが悪い、または競合優位性がない。
2. A/Bテストの実施
客観的なデータに基づいて改善を行うため、A/Bテストを積極的に行いましょう。
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例: Webサイトのキャッチコピー、広告の画像、価格設定など、変更する要素を一つに絞り、AパターンとBパターンで効果を比較します。
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目的: 「なんとなく良さそう」ではなく、「どちらの方が売れるのか」を数値で検証します。
最後に:顧客解像度が「価格」を決める
新規事業で最も難しいのが「価格設定」です。しかし、顧客解像度が高ければ、この価格設定の悩みは解消されます。
顧客解像度が高ければ、顧客がその課題解決にどれだけの「痛み」を抱え、どれだけの「コスト」を費やしているかが分かります。
あなたの製品が、顧客のその「痛み」を大きく上回る便益を提供できるなら、彼らは迷わずお金を払うでしょう。
あなたの事業を「売れる」状態に変える鍵は、あなたの会社の技術室ではなく、顧客の頭の中にあります。さあ、今すぐ顧客解像度を高め、市場の現実と向き合いましょう。


