バックオフィス部門の業務可視化
何に時間がかかっているかを見つける方法
「毎日忙しいけれど、何に時間を費やしているのか、実はよくわからない…」
バックオフィス、特に経理や総務の担当者の方なら、そう感じたことは一度や二度ではないでしょう。デスクには書類が山積み、メールはひっきりなしに届き、目の前のタスクをこなすだけで精一杯。
しかし、その「忙しさ」は、本当に必要な業務に費やされている時間でしょうか? もしかしたら、その忙しさの裏には、誰も気づいていない「無駄な時間」が大量に潜んでいるかもしれません。
業務のブラックボックス化が未来を阻む
多くのバックオフィス部門で、業務は「ブラックボックス」化しています。特定の担当者しかその業務の全貌を知らず、手順やノウハウが個人の頭の中に留まっている状態です。
このブラックボックス化こそが、会社の成長を妨げ、未来への投資であるDX(デジタルトランスフォーメーション)を阻害する最大の原因となります。
1. 改善の機会損失
業務がブラックボックス化していると、どこに非効率があるのかが分かりません。非効率な手作業や、無駄な承認プロセスがそのまま温存され、誰もそれを指摘したり、改善したりすることができません。結果として、「残業が減らない」「生産性が上がらない」という悪循環に陥ります。
2. DX・システム導入の失敗
新しいITツールを導入しようとしても、「現状の業務フローがわからない」という壁にぶつかります。ツールは業務を効率化するためのものですが、どの業務を、どう効率化すればよいかの設計図がなければ、ツールはただの「高価な置物」になりかねません。業務可視化は、DXの成否を分ける最初のステップなのです。
3. 属人化リスクの増大
特定の人しか業務をこなせない「属人化」は、担当者の急な不在や退職時に、業務停止のリスクを伴います。また、ベテラン社員が新人教育に膨大な時間を割くことになり、チーム全体の生産性が低下します。
このブラックボックスの蓋を開け、光を当てる作業。それが、「業務可視化」です。
業務を可視化するための具体的な3つの手法
業務可視化は、難解な分析や高度なスキルを必要としません。必要なのは、「自分の業務を客観的に見つめ直す」という意識と、以下のシンプルな手法です。
手法1:業務フロー図を作成する
業務の流れを、誰でも理解できる図にすることから始めましょう。
-
タスクの分解
「請求書を発行する」という大きな業務を、「依頼メールを受信」「内容を確認」「システムに入力」「上司に承認依頼」「印刷・郵送」といった最小単位のタスクに分解します。 -
図の作成
分解したタスクを、記号(開始・終了、処理、判断など)で結びつけ、業務の流れ(フロー)を作成します。複雑なツールは不要です。PowerPointやGoogle図形描画、あるいはシンプルな手書きでも十分です。 -
責任者の明記
各タスクを「誰が」行っているのか(担当者や部署)を明確に記載します。これにより、業務の偏り(属人化)が一目でわかります。
業務フロー図を作成することで、「なぜこの作業が必要なのか?」「この承認プロセスは本当に必要か?」といった疑問が自然と生まれ、改善の糸口が見えてきます。
手法2:タスクごとの「時間計測」を行う
業務フロー図でタスクの流れが見えたら、次は各タスクに「どれだけの時間がかかっているか」という数字を当てはめます。
-
時間計測の実施
1週間や1ヶ月など期間を定め、ストップウォッチやタスク管理ツールを使って、各タスクにかかった時間を記録します。-
例:「仕訳入力(1件あたり):3分」「問い合わせ対応(1回あたり):5分」「請求書印刷・封入(1件あたり):2分」
-
-
「純粋な作業時間」と「待ち時間」の分離
業務時間には、自分が実際に作業している時間だけでなく、上司の承認待ちや他部署からの情報待ちといった「待ち時間」が含まれます。この待ち時間を正確に把握することが重要です。
この時間計測を行うと、多くの人が「意外とこの作業に時間がかかっていたんだ」という事実に驚かされます。特に、単価の低い単純作業の積み重ねが、大きな時間のロスになっていることが浮き彫りになります。
手法3:発生頻度と処理時間をマッピングする
可視化したデータ(タスク、時間、頻度)を組み合わせて、「改善の優先順位」をつけます。
-
横軸に「処理時間」、縦軸に「発生頻度」の二軸のグラフ(マトリックス)を作成し、各タスクをプロットします。
-
「高頻度・長時間」の領域
グラフの右上に位置するタスクは、「残業の根源」です。ここに該当するタスクは、最優先で自動化・排除の検討対象となります。 -
「低頻度・長時間」の領域
左上に位置するタスクは、年に数回しか行わない決算業務などが該当します。これは「属人化・品質リスク」の根源です。マニュアル作成や外部委託(アウトソーシング)の検討対象となります。
このマッピングによって、感情や経験ではなく、データに基づいた客観的な改善策を立案できるようになります。
可視化によって得られるデータは「未来への羅針盤」
業務可視化は、単なる現状把握ではありません。それは、あなたの業務を「資産」に変え、未来の業務改善に向けた「羅針盤」を手に入れる行為です。
1. 改善策の立案が容易になる
可視化されたデータがあれば、「なんとなく」ではなく、「この業務(時間単価が安い単純作業)に年間〇〇時間も費やしているから、RPAを導入して自動化すべきだ」といった、具体的で説得力のある改善提案が可能になります。
2. チーム全体の知識レベルの底上げ
業務フローや時間配分が明確になることで、新人教育が容易になり、チーム内でのナレッジ共有が促進されます。誰がどの業務を担当しても、一定の品質を保てる「標準化」の土台が築かれます。
3. DX推進の確実性が増す
システム導入の際も、可視化された業務フローを元にベンダーとコミュニケーションを取れるため、「必要な機能」と「不要な機能」が明確になり、導入後のミスマッチを防ぐことができます。これは、DXを成功させるための最大の武器となります。
まとめ:あなたの時間はもっと価値がある
バックオフィス部門の業務可視化は、一時的に手間がかかる作業です。しかし、この手間こそが、未来のあなたとチームの時間を解放し、より価値のある仕事に集中するための「投資」となります。
「毎日忙しい」という感覚に流されるのではなく、「何に時間がかかっているのか」を客観的なデータで把握すること。
あなたの時間は、ただ書類を処理するためだけに費やされるべきではありません。経営状況を分析し、会社の成長を支える「攻めの経理・バックオフィス」へと進化するために、ぜひ今日から業務可視化を始めてみてください。
あなたの働き方は、きっと劇的に変わるはずです。


