経理部門のコミュニケーション不足による影響と解決策
「あの請求書、まだ来てないんですけど…」
「この経費、なんの費用か分からないんですけど…」
経理担当者の方なら、こうした言葉を耳にしない日はないかもしれません。他部署から送られてくる不完全な情報や、遅れて提出される書類。そのたびに、経理部門は確認作業に追われ、本来の業務が滞ってしまいます。
経理の仕事は、会社の数字を扱う、いわば「バックオフィス」の専門職。しかし、その業務は決して孤立しているわけではありません。営業、マーケティング、製造、人事…すべての部署と密接に関わりながら成り立っています。
にもかかわらず、多くの会社で、経理部門は「最後の砦」として、他部署から来る情報を受け取るだけの「受け身の存在」になってしまいがちです。この「受け身」の姿勢こそが、非効率な業務プロセスとコミュニケーション不足を生み出す、根本的な原因なのです。
コミュニケーション不足が引き起こす3つの「悪影響」
経理部門と他部署との間のコミュニケーション不足は、単に「手間が増える」以上の深刻な問題を引き起こします。
1. 業務プロセスの停滞
他部署からの情報が遅れたり、不完全だったりすると、経理の業務はそこでストップしてしまいます。
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例: 営業部門が請求書に必要な情報を経理に共有しないため、請求書の発行が遅れる。これにより、入金サイクルが遅れ、会社のキャッシュフローが悪化するリスクが発生します。
このような停滞は、月末月初の締め作業や決算業務において、経理部門の残業を増やすだけでなく、会社全体の業務効率を著しく低下させます。
2. 人的ミスの増加
情報が不完全な場合、経理部門は「どういうことだろう?」と推測しながら業務を進めざるを得ない状況に陥ることがあります。
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例: 経費精算書に領収書が添付されていない、あるいは目的が不明な場合、経理担当者が口頭で確認し、その情報を手入力する。このプロセスは、聞き間違いや入力ミスといったヒューマンエラーを引き起こしやすくなります。
このようなミスは、後で修正するのにさらに時間と手間がかかり、最悪の場合、会社の信用問題に発展することもあります。
3. 互いの理解不足による摩擦
経理が他部署に対し、厳しいルールや締め切りを求めるとき、なぜそのルールが必要なのかが理解されていないと、不満や反発を生みやすくなります。
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例: 「なぜ経費精算は月末までに提出しないといけないの?」「請求書の発行にそこまで細かく確認する必要ある?」といった不満は、経理業務の重要性や、それが会社全体の健全な運営にいかに重要であるかが理解されていないために起こります。
このように、コミュニケーション不足は、部署間の信頼関係を損ない、組織全体のパフォーマンスを低下させる悪循環を生み出すのです。
経理部門がコミュニケーションを円滑にするための3つの解決策
では、この悪循環を断ち切るには、どうすれば良いのでしょうか? 経理部門が「受け身」の姿勢から脱却し、能動的に動くことが鍵となります。
解決策1:情報共有の「仕組み」を作る
口頭でのやりとりや、個人のメールに頼るのではなく、誰もがアクセスできる「共有の仕組み」を構築します。
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社内FAQシステムの構築
「経費精算のやり方がわからない」「請求書の発行に必要な情報は?」といったよくある質問とその回答を、社内FAQシステムや共有ドキュメントにまとめましょう。これにより、経理部門への個別の問い合わせが減り、本来の業務に集中できます。 -
報告ルールの統一
経費精算書や請求書発行依頼のフォーマットを統一し、必要な情報を明確に記載するルールを全社に周知徹底します。「この項目が空欄の場合は受け付けません」といった明確なルールを設けることで、情報不足による確認作業をなくすことができます。 -
情報共有会議の開催
定期的に他部署のキーマンと情報共有のための会議を開きましょう。新しいプロジェクトが始まる前に経理として確認すべき事項を伝えたり、他部署の業務プロセスを理解したりすることで、スムーズな連携が可能になります。
解決策2:経理の「役割」と「目的」を伝える
なぜ、経理の業務が重要なのか。なぜ、そのルールが必要なのか。その背景を他部署に伝えることで、協力体制を築きやすくなります。
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経理業務の重要性を伝えるセミナー
新入社員研修や部門横断的な研修で、「なぜ、経費精算を期日までに提出しないといけないのか?」「なぜ、請求書の宛先が重要なのか?」といった、経理業務の重要性をわかりやすく説明する機会を設けましょう。 -
「なぜ?」に答える姿勢
「この書類はこういう理由で必要なんです」「この情報をいただけないと、法律上の問題が発生する可能性があります」など、「なぜ?」に論理的に答えることで、相手の理解と協力を得やすくなります。
解決策3:ITツールを活用して「連携」を自動化する
コミュニケーション不足の根本原因は、人手による情報のやりとりにあります。ITツールを導入し、このプロセスを自動化することで、人為的なミスや遅延をなくすことができます。
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経費精算システムの導入
従業員がスマートフォンで経費を申請し、上司がその場で承認、経理が確認・処理までをすべて一つのシステム上で行う。これにより、紙の書類のやりとりがなくなり、情報がリアルタイムで共有されます。 -
クラウド会計ソフトの活用
営業部門が作成した請求書データが、自動的に会計ソフトに連携される仕組みを構築すれば、経理部門での手入力作業が不要になります。
これらのツールは、単なる業務効率化だけでなく、部署間の情報の壁を取り払い、シームレスな連携を可能にします。
まとめ:経理は「最後の砦」から「会社のパートナー」へ
経理部門は、もはや「最後の砦」ではありません。
他部署とのコミュニケーションを円滑にし、情報発信を能動的に行うことで、会社の成長を加速させる「ビジネスパートナー」へと進化することができます。
情報共有の仕組みを作り、経理の役割を伝え、ITツールを活用して連携を強化する。これらはすべて、経理部門が会社の業務プロセス全体を改善するための、重要な戦略です。
小さな一歩からでも構いません。まずは、あなたの部署で最も頻繁に発生する「情報のやりとりに関する不満」を一つ特定し、それを改善するためのコミュニケーションを始めてみてください。
その行動は、きっと会社全体の働き方をより良くする、大きなきっかけとなるでしょう。