新規事業担当者が知っておきたい人事評価制度の重要性
新しいビジネスを創り出す現場にいるあなたは、日々の仕事に情熱を燃やしていることでしょう。しかし、どれだけ革新的なアイデアがあっても、どれだけ努力しても、それが正しく評価されなければ、やがてその熱意は失われてしまいます。
特に、安定した収益を追求する既存事業とは異なり、不確実性の高い新規事業においては、人事評価制度のあり方が担当者のモチベーションを左右し、ひいては事業の成否を決定づけます。
「どれだけ頑張っても、既存事業の成果と比べられてしまう…」 「失敗したら評価が下がるのではないか…」
もし、あなたがそう感じているなら、それはあなたの組織の評価制度に問題があるのかもしれません。このコラムでは、新規事業担当者のモチベーションを最大限に引き出し、挑戦を促すための人事評価制度の重要性と、その具体的な設計方法について解説します。
既存事業の評価制度が新規事業に合わない理由
多くの大企業では、既存事業の評価制度をそのまま新規事業に適用しています。しかし、これは大きな間違いです。なぜなら、両者はビジネスの性質が根本的に異なるからです。
既存事業 | 新規事業 | |
目標 | 安定した収益と効率化 | 新しい価値の創造と成長 |
評価指標 | 売上、利益率、コスト削減など、短期的・定量的な成果 | 市場開拓、顧客の獲得、学習の速度など、長期的・定性的な成果 |
求められる行動 | 計画通りに物事を進める「確実性」 | 失敗を恐れずに挑戦する「不確実性」 |
既存事業の評価制度は、売上や利益といった定量的な指標に基づいています。しかし、立ち上げ期の新規事業は、赤字が続くことがほとんどです。この段階で売上目標だけを重視すると、担当者は短期的な成果を追い求め、本来必要な長期的な視点や大胆な挑戦ができなくなってしまいます。
新規事業担当者を正しく評価するための3つのポイント
新規事業においては、結果を出すまでに時間がかかります。そのため、結果だけでなく、そこに至るまでの「プロセス」を評価することが重要です。
1. 成果だけでなく「プロセス」を評価する
では、新規事業に適した評価制度は、どのように設計すれば良いのでしょうか?以下の3つのポイントが重要となります。
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仮説検証の回数
どれだけ多くの仮説を立て、素早く検証し、そこから学んだか。 -
顧客理解の深さ
顧客の潜在ニーズをどれだけ深く掘り下げることができたか。 -
失敗からの学び
失敗を単なるミスと捉えるのではなく、そこから何を学び、次の行動に活かしたか。
「失敗は挑戦の証」と見なし、その失敗から得られた学びを評価項目に加えることで、担当者はリスクを恐れずに新しいことにチャレンジできるようになります。
2. 「定量」と「定性」のバランスを取る
新規事業は、定量的な指標だけでは評価できません。定性的な指標も組み合わせて、多角的に評価しましょう。
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定量評価項目例:
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顧客獲得単価(CAC: Customer Acquisition Cost)
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顧客生涯価値(LTV: Life Time Value)
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月次経常収益(MRR: Monthly Recurring Revenue)
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Webサイト訪問者数、アプリダウンロード数など
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定性評価項目例
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行動評価
「顧客のペインポイント(痛み)を特定できたか?」「チーム内外の利害関係者を巻き込めたか?」 -
スキル評価
「新しい技術を習得できたか?」「データ分析能力を向上させたか?」
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特に、チームで取り組む新規事業においては、個人の成果だけでなく、チームへの貢献度や協調性といった定性的な要素も評価することが、健全な組織風土を築く上で不可欠です。
3. 公平な「相対評価」から「絶対評価」へ
多くの大企業では、既存事業との比較に基づく相対評価が一般的です。しかし、新規事業の場合、「絶対評価」を導入することが望ましいでしょう。
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絶対評価
事前に設定された目標に対して、どれだけ達成できたかを評価する方法。他の社員と比較するのではなく、個人の成長と貢献度を公正に評価します。 -
相対評価
他の社員と比較し、順位付けをして評価する方法。
相対評価では、新規事業担当者が既存事業の営業成績優秀者と比較されてしまい、正当な評価が受けられない可能性があります。絶対評価を導入することで、担当者は「目標達成」という明確なゴールに向かって、安心して挑戦できるようになります。
人事評価制度を改善するための具体的なステップ
「よし、評価制度を変えよう!」と思っても、何から手をつけるべきか迷うかもしれません。以下の3つのステップで、あなたの会社の評価制度を改善していきましょう。
1. 目的と評価項目を明確にする
まずは、新しい評価制度の「目的」を明確に定義します。「新規事業の成功確率を高めること」「担当者のモチベーションを維持・向上させること」など、具体的な目的をチーム全体で共有しましょう。
その上で、上記で解説した「プロセス」「定量」「定性」のバランスを考慮し、評価項目を具体的に設定します。
2. 定期的なフィードバックの仕組みを作る
評価は、期末に行うだけでなく、定期的なフィードバックが重要です。
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週次・月次のミーティング
メンバーの進捗を把握するだけでなく、「今週、何に挑戦したか?」「そこから何を学んだか?」といった定性的なフィードバックの場を設けます。 -
360度評価
上司だけでなく、同僚や部下、時には外部パートナーからのフィードバックも取り入れることで、多角的な視点から担当者の貢献度を評価できます。
これにより、担当者は自分の強みや弱みを早期に認識し、改善につなげることができます。
3. 失敗を許容する「心理的安全性」を確保する
どんなに優れた評価制度を導入しても、組織全体に「失敗は許されない」という空気が漂っていては意味がありません。
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失敗事例の共有
失敗をオープンに共有し、そこから学んだ教訓をナレッジとして蓄積する文化を築きます。 -
「ファーストペンギン」を称賛する
最初に挑戦した人(ファーストペンギン)を失敗したからといって責めるのではなく、その勇気を称えることで、チーム全体の挑戦意欲を高めます。
心理的安全性が確保された環境でこそ、新しいアイデアが生まれ、担当者は安心してリスクを取ることができます。
最後に:評価制度は「事業成長のエンジン」
人事評価制度は、単なる給与や昇進を決めるための仕組みではありません。それは、新規事業担当者のモチベーションを高め、挑戦を促し、組織全体の成長を加速させるための「エンジン」です。
あなたの会社に眠る革新的なアイデアと、それを実現しようとする担当者の情熱を、正しい評価で後押ししてください。
このコラムが、あなたの会社の新規事業を成功へと導く一助となることを願っています。